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 兵庫県東部の宝塚市に用向きがあり、そのついでに宝塚駅前付近を歩いて見た。
宝塚と云えば、歌劇で良く知られている街である。
そのためであろうか? 駅の周辺は何か垢抜けしたような雰囲気が漂う。
 宝塚には右手のJR福知山線宝塚駅と左手の阪急電鉄宝塚駅が行儀よく並べて設けられており、その間は駅前の広場になっている。
そしてその広場の下には、国道176号線がトンネルで通っており、幹線と通る車は隠されて、その交通喧騒からは逃れられている。
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 阪急駅のJRと反対側の広場の横には、山間を流れてきて、ここから平地部に入ることになる武庫川の清流がある。
この川の少し下流左岸に宝塚大劇場がカラフルに聳えている。
 武庫川には阪急駅のところから宝来橋という橋が架けられている。
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これが極めて珍しい橋である。
直線の橋ではなく、上から見るとS字の形をしていて、通称「S字橋」の名前で市民や観光客からは親しまれている。
この橋を渡れば、駅から直ぐに宝塚温泉に行くことができる。

 宝塚温泉は、歌劇とともに栄えてきた温泉であったが、阪神淡路の大震災以降、様々な要因で経営が苦しくなり廃業に追い込まれる中、現在はこの橋の両側にあるのスパとホテルが温泉街を形成している。
 温泉街を見て、S字橋を渡り返し今度は南方向、宝塚大劇場の方へ行って見る。
歌劇の大劇場に行く道を「花のみち」と云う。
この道には色んな店やオブジェも並んでいる。
ファンの方には堪らない雰囲気を醸し出しているのであろう。
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 この雰囲気にはあまり馴染めないので、お構いなしに進んでゆく。
大劇場に到着して、そこから左手横へ出る。
その先には漫画家手塚治虫の記念館がある。
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 ここは20年前ぐらいの建設である。手塚氏が若いころの20年間、ここ宝塚に住んでいたことを記念して造られたものである。
漫画本の他に、ビデオやシアターも装備されていて、手塚ワールドに心ゆくまで浸れことができる施設である。
 私事であるが、この館の建設時、設備構築に関わったことがある。
暫くして例の大地震に見舞われ、その修復もしたことを今となっては懐かしく思い出した。
 手塚記念館の前から、駅に戻る方向で歩く。
国道に出る右手に宝塚ファミリーランドという遊園地があった筈だが、今はもうない。
宝塚ガーデンフィールズと云う広い緑地広場、その向こうに2本の高層マンション、KG大学の小学校などが建てられて、変わってしまっているのも時代の流れであろうか…。
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 宝塚と云う地名は古墳時代からあったと云われている。
「塚」と云う字は古墳を表し、それが街の名前として現在まで受け継がれている。
 中世には摂関家の荘園として支配されていた部分が多かったが、戦国時代になって環濠集落である小浜宿が成立した。
以後、有馬街道、西宮街道、京伏見街道の交差点の宿場町として栄えたのであった。
織田信長が一時、陣を構えた本願寺派の毫摂寺、秀吉が有馬通いの時に立ち寄って利休が茶を点てた山中家の「玉の井戸」、今でも保存されている。
小浜宿では江戸期には、悲運の武将・山中鹿之助を祖とする鴻池家が蔵元となり、関西の酒造りを始めたことでも知られている。
 しかし宝塚と云えば、なんと云っても明治以降であろう。
 阪急電車の前身、箕面有馬電気鉄道の開設とそれに伴う沿線開発である。
住宅地開発と住宅販売、宝塚温泉の開発、宝塚歌劇の前身となる宝塚唱歌隊の創立など、沿線の収益事業として、様々な試みがなされた。
これを指揮し実行したのは小林一三氏、阪急の創業者である。
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彼は「乗客は電車が創造する」と云う言葉を残していて、電鉄が行う総合事業の範とされている。
宝塚という街は彼のビジネスの才によって開かれた街と云っても過言ではない。

 宝塚の名物と云えば、隣の六甲山中腹の有馬温泉も含めて、炭酸せんべいであろう。
炭酸せんべいは、直径10cm程度の円形状、厚さは1mm程度である。
色は薄い褐色系であり、表面には焼型の紋様が付いている。
この煎餅は湿気に弱いため、円筒形の缶入りで販売されている。
 製法は小麦粉、砂糖等に温泉の炭酸泉を加えて、型の中で焼き上げている。
製造販売している店は、有馬温泉も含め数多くあるが、店ごとに微妙な味の違いがある。
また最近では、2枚の煎餅の間にバニラクリームやチョコレートを挟んだゴーフル状の物も売られている。
 歌劇の大劇場の中では、各組のトップスターの顔を缶に印刷したものを「宝塚歌劇せんべい」の名で、土産として販売されている。
各地の温泉に似たようなものがあるので、この炭酸せんべいでなくとも、温泉のせんべいを味わった方は多いと思われる。
 この炭酸せんべい、帰りの電車に乗る前に、駅の売店で購入した。
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持ち帰って食べてみると、匂いが甘ったるいお菓子が多い中、匂いもなく歯触りも質素で、原点に帰った如く美味しく頂けたのであった。