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 伊勢うどんと云う食べ物がある。
直径1cm程度にもなる太くて柔らかいうどん麺に、出汁で味付けされた溜り醤油を必要量だけ掛けたぶっかけうどんの一種で、主には三重県の伊勢神宮の近辺で食べることができるものである。
 伊勢うどんとは、江戸時代あるいはそれ以前から、伊勢地方の農民達が小麦粉を練り固め、棒状にして麺を仕上げた後、麺を茹でて、地味噌をぶっかけて、葱を具に食べた常用食であると云われている。
麺が太いのは、忙しい野良仕事の合間に作るものなので、手間を惜しみ太いままで完成としたものと云われている。
しかし麺が太いと茹でる時間が多くかかるが、沸騰した湯の中に一時間程度放置しておけば良く、手間はかからないので、そちらの方を選んだ結果であった。
 江戸時代の元禄の頃、伊勢神宮へお参りするお蔭参りが盛んとなった。
年間に300万人以上にもなったと云う。
そうなれば、伊勢神宮の門前にはお茶処や食事処そして旅籠が並ぶことになる。
 参詣者へ地元食である伊勢うどんが供されたのは自然な成り行きであったと思われる。
橋本屋の小倉小兵と云う人物がうどん屋を開業したのがその最初と云われている。
腹を空かし、長旅で疲労困憊の参詣者へ、消化の良い柔らかいうどんが出され喜ばれた。
そしてたちまちのうちに名物となったのであった。
 かつて伊勢旅行した時にこの伊勢うどんを食べたことがあるが、それっきりになっていた。
伊勢以外でこのうどんを食べられる店が見つからなかったからである。
地上高300mのビル、あべのハルカスの天王寺・阿倍野駅で電車を乗り換えることが時々ある。
いつもはさっさと乗り換えるだけであったが、今回は丁度昼時であった。
そんなに時間があるわけでは無いので、乗り換えの通路や改札付近に駅蕎麦の店があれば行って見ようと思っていた。
通路にある商店街には無さそうなので、諦め状態で近鉄電車阿倍野駅の改札口へ入った。
何のことは無い、改札の中に駅蕎麦の店があったのである。
 店の表のメニューを見てみる。
普通のうどん、そばの他に伊勢うどんと云うのがあるではないか…。
近鉄は伊勢志摩が主要な観光地である。
その集客キャンペーンの一環であるのかも知れない。
 これはまたとない機会である。
券売機で食券を購入して、店の中に入ったのであった。
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 食券をカウンターに差し出すと、
「茹でるのに5分程度かかりますよ」
とのことであった。
一旦しっかりとゆでた麺は準備ができているようである。
それでも5分は掛かるのである。
さどや美味しいのが出来上がるであろうと期待し、待つことになった。
 暫くしてカウンターの中から呼ばれ、伊勢うどんを受け取った。
トッピングは刻み葱だけである。
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「天かすはそこにありますよ」
と云われ、スプーン一杯に掬い、うどん鉢に盛った。
これが良かったのか悪かったのか、後で分かることになる。
 柔らかくて食べやすいうどんである。
麺はふんわり、もちもちと云う言い方が当たっている。
 出汁は底に少々ありという状況なので、掘り起し出汁を絡めながらであった。
出汁は溜り醤油ベースであることは分かっているが、黒い色に反して甘く感じた。
旨み甘味をアレコレの手法で出しているのであろう。
 うどんに葱と天かすを、そして出汁をからめ美味しく頂いたのであった。
 最後に麺鉢の底には出汁が浸透した天かすが残っていた。
これがまた美味いのである。
揚げ物のシットリ菓子の様な味わいである。
出汁の別の味わい方であろうか?
これも完食となったのであった。

最近の天王寺・阿倍野は人が多くなったような気がする。
ハルカス効果であろう。

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 店も多くなり、綺麗にもなった。
しかし、実感として梅田や難波の混雑ぶりには至っていない。
今後はどう展開していくのであろうか?
興味のあるところである。
 余談であるが、昨日(12月5日)「大阪うどんミュージアム」が心斎橋にオープンした。
ここでも伊勢うどんが食べられることになったのである。