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 京都市内の西北部を走っている電車に京福電鉄嵐山線、通称「嵐電」と云われる電車がある。
この電車の町なかの起点は四条大宮駅である。
かつては大阪から来る阪急電車の特急もこの駅に停車していたが、最近は停まらない。
京都の町の比重が東へ東へと移って行ったことを物語っているようである。
 しかしこの嵐電に乗ると、嵐山・嵯峨野を始め多くの有名どころへ渋滞なしに行けるので、重宝な路線であることは言うまでもない。
今回はこの嵐電に乗って、御室仁和寺で途中下車してみた。
勿論目的は世界遺産・仁和寺を訪問することである。
 仁和寺は宇多天皇が創建した真言宗御室派の寺院。
正面奥にある国宝の金堂は御所の紫宸殿を移築されたもので殊のほか美しい。
また、染井吉野が散り果てた後で咲く八重の御室桜が観光客や市民の目を楽しませるところでもある。
 御室仁和寺駅から寺まで通じている通りを辿ると、瞬く間に仁和寺の山門に至る。
先ず寺へのお参りを済まし、付近の探索と昼飯に向かう。
 門前の通り「きぬかけの道」は最後に探索することにして、先ずは周りの路地の探索である。
この駅の付近はあまり観光化されてはいない。
おとなしそうな食事処が数件と云う感じである。
斜めの路地に入ってみた。
もう住宅街である。
その並びに「衣笠丼」と書かれた看板の店があった。
「衣笠丼? なんだろう?」

確かこの辺りの少し東に衣笠と云う地区がある。立命館大学の衣笠キャンパスと云うのもあるし、衣笠小学校や中学校もある。
もっと云えば、宇多天皇が夏場に雪を見たいと注文して、白い衣を掛けて雪景色を表現した衣笠山と云うのもある。
その衣笠が丼になったと云うのだろうか?

 AG亭御室店、とりあえず入ってみよう…。
カウンター席が空いていたので、座って衣笠丼を注文した。
待っている間に店の中を眺めてみた。
昼は定食屋、夜は居酒屋であろう。
日本酒の酒瓶がカウンターの奥に並んでいた。

探していた銘柄の瓶もあったので、店の大将に聞いて見た。
「この酒○○はこのあたりの店で手に入るんですか?」
「いや、このあたりじゃなく、東本願寺の前の酒屋さんから届けてもらってます」
「是非、その酒屋さんを教えてください」
丁寧に、地図と電話番号のメモを書いてくれたのであった。

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 さて、衣笠丼が出てきた。味噌汁付きなのは嬉しい。
卵とじの丼である。
具は油揚げと青葱、頂上にキザミ海苔が乗っている。
ヘルシーと云うか、安価な材料と云うか、そのようなものであった。
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 味はどうだろう?
 食べてみると、油揚げに出汁がよく滲み込んでいる。出汁の良し悪しで全てが決まるようである。
きつねうどんみたいに油揚げに味付けがされていて、卵のあっさり風味と葱のシャキシャキ感とがマッチしての味と食感が売り物であろう。
美味しく頂くことができたのであった。

衣笠丼、諸説あるが、衣笠山に雪が降って、山がまだらな雪景色になるのを表した物であろうか?
関西で良くあるのは木の葉丼、これは油揚げでなく蒲鉾を具にした卵とじであるが、蒲鉾は落ち葉を表現したものであると云われている。

他にも卵とじ丼では親子丼、他人丼はよく知られている。
変わったものとして筍の若竹丼、揚げ玉のハイカラ丼と云うのもあるらしい。
 衣笠丼は、他の地域ではキツネ丼とか信太(しのだ)丼とも云われるらしい。
所変わればである。
 また丼には、カツ丼とか具だけを乗せる丼がある。
タレを掛けたご飯に具を乗せる天丼とかうな丼とかもある。
更に酢飯に新鮮な魚ネタを乗せる海鮮丼もある。
お茶を掛けて食べる丼?もある。
 衣笠丼が油揚げなら、豆腐をとじてみたらどうなんだろう?
味付けが微妙と思われるが…。
さしずめ、豆腐どころの名を付けて嵯峨丼とでも云おうか…。
 一口に丼と云っても奥が深い。
庶民の友なるが故であろうか?
 衣笠丼の後はどうしても衣笠山を見てみよう。
きぬかけの道を歩き龍安寺に入り、池を通して衣笠山を見た。
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 雪はまだない。
丼鉢を伏せて、裾を広げたような山であった。