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 もう10数年前、会社仲間から、
「美味いとんかつがあるんです。 食べに行きましょう? 少々お高いですけど…」
と誘われて、東京のとんかつに興味があったこともあるが、出掛けたついでに行くことになった。
 それは山手線御徒町(おかちまち)駅の西の松坂屋のその向こうの中央通り(?)を越えて路地を入った所にある「ISN」という老舗トンカツ屋であった。
あまり詳しいことは覚えていないが、2階への階段を昇り、幾つかのテーブルを並べた座敷のようなところで、トンカツを頂いたのであった。その時の思ったことがある。
東京のトンカツは関西に比べて柔らかいな…。
何か特別な処理でもしているんだろうか?
関西でしか食べたことは無かったので、そう思ったのである。
 その後もトンカツが食べたくなったら行ってみた。
いつも2階の座敷である。
ランチとしては少々お高いが、美味しく頂いたのであった。
 以来、たまには関東関西に限らず、いろんなお店でトンカツを頂くと、トンカツがだんだんと柔らかくなって来ているように思える。
材料そのものの流通時の細工で柔らかくなって来ていると云うこともあろうが、柔らかく調理する方法もあれこれ開発されて来ているのであろう。
 しかし、柔らかいのがよいのか、多少の歯ごたえ有りが良いのか、それは個人の好みなので何とも言えない。
 テレビ番組で、食事をするシーンで、タレントやレポーターが、一つ覚えのように、
「う~ん。 美味し~い」
「柔らか~い。 ジューシー」
などと一つ覚えのように言っている。
あるいは言わされているのかも知れないが…。
 柔らか文化がテレビ番組に誘導されて来たことの結果であるとの気もするが…。
 「ISN」は変わっているのだろうか? 見てみようと御徒町で途中下車した。
この辺りは、あまり変わっていない。
変わったところが一つあった。
駅の西側が道路を挟んで広くなって、松坂屋の駐車ビルが整備されていることである。
それ以外は昔のままの雑多な雰囲気である。
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 「ISN」に到着した。
「いらっしゃい!」の声に導かれて、空席待ち席へ…。
一階の店内は調理場とカウンター10席程度、それにテーブルが3つである。
奥の2階への階段の昇り口に帳場がある。
カウンターに案内されて、ロース定食を注文し、暫く待った。

 お茶が急須付で出されるのも嬉しい。

調理場が良く見える。
トンカツを揚げる調理人、揚げたトンカツを切って盛り付けたり、豚汁をよそったりする調理人、ご飯をよそったり漬物を盛り付ける調理人、その奥では食器洗いの人2名、調理場は整然として機能的に動いている。

トンカツを載せて切る俎板は、トンカツより少し大きいもので、使い込まれているのであろう、数本の溝が入っていて、全体も薄くなっている。
どの状態まで使うのであろうか? 興味のあるところである。

 料理が出てきた。
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 まず豚汁、これは美味い。
具は少ないが、ぶつ切りの葱が浮かんでいて、これがアクセントである。
見た目は全くの味噌汁であるが、口に入れると豚汁。
脂ぎって無く、大変に美味い。
 肝心のトンカツ、まずソースを掛ける。
市販されているトンカツソースやウスターソースではない。
恐らくは秘伝のソースであろう。
薄い色で、フルーティーな味である。
本題のトンカツ、柔らかいが、当時のような驚きはない。
千切りキャベツと合わせて美味しく頂き、久しぶりに満足したのであった。
 「ISN」の表にでて、店構えを眺めてみた。
かつてと同じである。
屋号の看板には、昭和5年の創業と書かれている。
と云うことは、現在で80数年になる老舗である。「お箸で切れるやわらかいトンカツ」をキャッチフレーズに創業したそうである。
当時の「ISN」の前は黒塀に柳がなびき、人力車が行きかう「粋」な横丁だったこともあって、芸者衆が食べやすいようにと小さなかつサンドを作り、カツサンド発祥の店としても知られる。
 更に、この店から神宮前に店を構えるトンカツ店「MISN」もこの店から独立したそうである。
 最後に、この店をモデルにした映画も生まれている。
森繁久弥主演の「喜劇 とんかつ一代」である。
東京オリンピックの前年の作品である。
 このトンカツに昭和の歴史を見たような感じがしたミニ旅であった。

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