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 京都の蕎麦や饂飩の店に行くと「たぬき」という麺がある。
先日、京都の河原町に用があって行った時に、昼飯に久しぶりに「たぬき」を食べてみようと、以前に行ったことのある店を探して行ってみた。
 新京極と云う通りの南の入り口付近にある「TGT」という店である。
昼時は少しは過ぎていて、店内は7割ぐらいの客で、席があったのはラッキーであった。
 注文を取りに来た店員さんに「たぬきお願いします」と答えた。
その店員さん、
「『たぬき』ってあんかけですけど…」
それを分かって食べに来ているのである。
よく間違いトラブルがあるものだから、このように注意を促すのだろうか?
「それでいいんですけど…」
「蕎麦ですか? うどんですか?」
 両方やっているようである。
饂飩の方が延びなくていいのだが、なぜか蕎麦にしたかった。
「じゃあ、蕎麦で…」
「はい、わかりました」
そんなやり取りがあってから暫く待った。
 京のたぬき、そば麺の上に刻んだ揚げと九条青ネギを乗せて、その上に出汁で作った餡が掛けられている。
そして出汁の頂上に、すりおろした生姜が一つまみ…。
生姜が香りを発して旨そうな感じに仕上がっている。
 久しぶりの「たぬき」との巡り合わせである。
先日、あんかけチャンポンを尼崎で食べたが、それは中華出汁の餡、今回のは和風出汁の餡である。
期待が高まる。
 餡かけは熱いまま、冷めにくいのが特徴である。
熱い餡とそばをからめ合わせながら、生姜の匂いと味を香辛料に、そして刻み揚げを食感に、たちまち完食となったのであった。
 店を出るときにレジをしてくれた人に聞いてみた。
「なぜ、たぬきと云うんですか?」
「わかりませんが…、昔からこう言う見たいです」
 カウンター内の調理場に板長らしき人が動いていた。
聞いてみたかったが、手を止めてもらうのも悪いので止めた。
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 京の「たぬき」の由来はともかくとして、全国には「たぬき」と云う場合、いくつかの種類がある。
 先ず近いところで、大阪である。
「たぬき」と云えばキツネそばを指す。
油揚げを甘辛く煮てそれをトッピングしたきつねうどんと同じで、麺だけがそばである。
きつねうどんとたぬきそば…。
うどんかと思ったのに、そばが入っていた。
うどんがそばに化けた。
それで黒いそばの色にかけて、たぬきと言ったのではなかろうか…?
キツネとタヌキの化かし合いの洒落であろうと思われる。
 次に関東である。
全国的にもそうかも知れないが、
「たぬき」と云えば、揚げ玉をトッピングしたうどん・そばを指す。
 これは天ぷらうどん・そばに対して、天ぷらの中身がない、「たねぬき」が訛ったものであろう…とこのように云われている。
天ぷらの中身がないので化かされたという別の意見もある。
これも洒落であろうかと思われる。
 関東では、揚げ玉のことを指して「たぬき」と云うこともあるらしい。
 関西では揚げ玉とは言わない。天かすという。
かすという響きは、かすなのでマズそうには聞こえるが、それこそ天ぷらを揚げたかすなので、直接的でわかり良い。
 余談ではあるが、大阪で「かす」というと、ホルモンの揚げたものを言う。
これを麺やほかの料理にトッピングしたりするのである。
かすうどんが最近のブームになっている。
 じゃあなぜ関西では、天かすトッピングの麺が無いのであろうか?
それは、天かすは無料サービスが普通であるからである。
関西でも讃岐うどんの本場でも、かけうどんを頼んで、サービスの天かすを自分でトッピングすれば、関東で云うたぬきもどきになる。
天かすを具にしてお金を取ろうと、うどん屋さん達は思わなかったのであろう…。
 しかし関西でも、天かす?(揚げ玉?)を商売にするところもある。
京都辺りでは、揚げ玉トッピングの麺を「ハイカラ」うどん、そばとしているという話も聞く。
 揚げ玉は、天ぷらを揚げた時のころもの余りの天かすではなく、それ用に球形にそして調味もし、工夫して作っている。
念のため…。
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京都の「たぬき」の由来は何であろうか?
あんかけをした麺は湯気が立たない。
冷たい麺であろうかと騙される、と云うことから来ているらしい。
 「たぬき」や「うどん」と「そば」、それに関東やら大阪やら京都やら、あれこれとあって、絡み合ってるので、最後に整理してみよう。
でないと、わからなくなってきた。
 うどんのたぬきには、京都のあんかけのうどんと関東の揚げ玉のうどんがある。
 そばのたぬきには、京都のあんかけのそばと関東の揚げ玉のそば、それに加えて関西の揚げをのせたきつねそばがある。
 一口に関東とか関西とか言っているが、大雑把な話にさせて頂いている。
正確ではないと思うが、ご容赦いただきたい。
 また、「たぬき」を全国規模に拡大した場合、もっと色々なケースがあると思われるが、とりあえずはここらが限界…。
 また機会を見つけて調べてみたいと思う。