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 今回もJR赤穂(あこう)線の途中下車である。
以前から気になっていた「日生のカキオコ」を味わって見ようと、岡山県備前市にある日生(ひなせ)駅で下車した。
JR赤穂線は、山陽本線の相生(あいおい)と東岡山を結ぶ瀬戸内臨海の線区であるが、観光にはいくつかのポイントがある。
 東から、ペーロン祭の相生、云わずと知れた浅野・大石の赤穂城下、それに漁港の日生、備前焼の伊部(いんべ)周辺、刀剣の里と黒田官兵衛の祖先が不遇の時代に過した備前長船(びぜんおさふね)、それに裸祭りの西大寺、他にもあると思われるが、この僅か新幹線の一駅にも満たない間に多くの有名処がある。
 日生駅で降りて、まずは常道である観光案内所を訪問した。
「この辺りの地図欲しいんですけど…」
出されたのはカキオコの店舗案内の地図であったが、これ幸いに、
「カキオコは何処が有名なんですか?」
無駄な質問をしてみた。
観光案内所では店を特定して教えることはできないのが普通である。
 しかし、指で指してくれた。
「東ならココ、西ならココ」
と…。
「HRですね」
と確認したが、返事は頷きのみ。
「早速行って見ます。行列はあるんですか?」
「いやあ、最近はそこまでは無いですよ」
と少し街に元気が無くなっているような回答であった。
「神社とか寺とかはありますか?」
その地図を指して、
「ここに西念寺さん、ここに春日神社さんがありますけど…」
「歴史的な遺構とか石柱とかは?」
「……」
このようなやり取りの後、街に向かったのであった。
 この日は天気良し。
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 駅の正面は広い湾で、港になっている。
駅を出たところの小公園に歌人与謝野晶子の歌碑があった。
日生に遊びに来て、いたく気に入って歌ったとの説明である。
それにこの歌碑の筆はご存じ元内閣官房長官の与謝野馨氏の手になるもの、馨氏は知らなかったが鉄幹・晶子夫婦の孫との説明書きもあった。
 この駅前の港は小豆島行きのフェリーも発着する。
繋留されているのはレジャーボートなどなど…。
そして向こうの半島側はドックとなっていて、大きな船が入っていた。
この船、帰りに近づいて見たら「大阪・海遊館」と書かれていた。
 街中の道路を西へ向かう。
市民会館、役所を見て半島の付け根を越えると、隣の湾となる。
ここは漁港と近隣の諸島へ通う船の発着場である。
お好み焼きの店やらスーパーマーケットなどが見えてくる。
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観光案内で教えてくれた「HR」という店を探す。
一本裏に旧道があるがその外れの辺りで見つかった。
 表に行列用の長椅子が置かれていたが、行列は無い。
暖簾をくぐって、入ってみた。
7~8席のカウンターとテーブルが3つ、それと店内にも待ち席。
8割方、席は詰まっていた。
カウンターの隅に案内された。
 勿論「カキオコ」と注文した。
カウンターの鉄板では、全面を使っていくつものカキオコが焼かれている。
2人連れの客が入ってきた。
「席を替わってくれませんか?」
「はいはい。いいですよ」
と今度はカウンターの正面席になった。
これがラッキーだった。
 店主であろう、テキパキと焼いている女将の前に座ったことになる。
「よく流行ってますね。観光案内で聞いてきたんですよ」
「案内で教えられたんですか? 普通は云わないんですけど…。そりゃ嬉しいですね」
「そう、一番流行ってるってね」
「金曜日はね。一番暇なんですよ。3人入ってるんですけど、フルに動かなならんほどの客は来ないんです」
「牡蠣をしっかり乗せてますね。こりゃ美味そうだ」
「3月の牡蠣はね、こんなに太ってるんです。水温が高いからでしょうね。焼きにくくて…」
「じゃあ、いつが美味しいんですか?」
「そりゃ身が引き締まった2月ですね」
焼きながらも、飾りなく本音発言の連続で、好感が持てる。
 女将さんの顔付きは、高島礼子をも一つ引き締めたような仕事美人である。
日々真剣勝負をしていると云う妥協を許さない顔付を感じた。
 このHRは創業60年程にもなる老舗である。
カキオコも古くからやっていたのであろう。
その自信が現れてるような店ではある。
 カキオコは玉子、キャベツ、小麦粉を混ぜて焼く普通のお好み焼きの上に、牡蠣を隙間なく並べて焼くお好み焼きである。
生地に牡蠣を混ぜ込むのかと思っていたがそうではない。
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 食べてみると、良く焼けた牡蠣、生焼けの牡蠣、場所により味が変わるバリエーションがある。
美味しく頂いて、満腹となり店を後にしたのであった。
 その後、近くの西念寺、春日神社にお参りした。
西念寺の表門は、備前藩家老屋敷の陣屋門を移築したものとの説明がある。
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 このような三間一戸形式の棟門は、他には東大の赤門、高知城の開成門が現存していると云う貴重なものである。
 帰路は半島状の楯越山の周りの道路を一巡しながら、漁協の市場やホタテの貝殻が山積みされた基地を見物した。
ホタテは何だろう?と思ったが、聞いて見たら牡蠣の種付け用であるとのこと。
舞台裏まで見てしまった感じで駅に戻ったのであった。