今日は待望の土曜日である。
竹上電機東京支店の畑山君、納品先のゼネコン鴨池建設の業務課社員、真奈美嬢を誘ってのデートの日が到来したのであった。

畑山君はレンタカーを奮発して真奈美嬢を会社近くの新橋駅へ迎えに行った。
「来てくれるかな?」と多少の心配もあったが、待ち合わせの9時に真奈美嬢が現れた時にはホッとして、天下を取った如くの意気揚々の気分となったのであった。

とりあえず車内に収まった2人、お互いに「おはよう」と云ったきり後は無言、車だけが動き始めた。
今日は2回目のデートである。
デートコースはお誘いの時に決まっていた。
「久しぶりに江の島を見たいわ!」
が約束であった。

車が動き出しても、中々ぎこちない2人である。
直ぐには会話は出ないものである。
畑山は静かな雰囲気を和まそうとカーラジオのスイッチを入れた。
ニュースや軽い音楽や交通情報などが続く。

京浜国道を横浜まで来た。
ラジオが『日本のへそ…』と喋っている。

「畑山君、日本のへそって、何なの?」
「日本の中心地じゃなかったかな?」
「中心は東京でしょう。東京がへそなの?」
「いやいや、地理的な中心かな? ラジオで言ってたように兵庫県の西脇市にへそ公園と云うのがある。日本標準時の135度の子午線と、35度の緯度線との交点だそうですが…」

「へ~そ~。知らなかったわ。私の生まれた群馬にも『へそ』ってのがあったけど…」
「群馬の渋川だろう? そこもへそと云われているよね。確か日本列島の4島に外接する円を描くとその中心が渋川になるからと主張してる。へそ祭りってのもあるらしい」
「畑山君って物知りね。へそ祭りを知ってるなんて…」
「いやいや、営業に行った時、地元の人から聞いただけどね…。どこも町起こしで、色々考えてるんだなと思ったけど…」

「でも、へそって真ん中のことでしょう? なら、子午線135度は標準時で意味があるけど、北緯35度とか外接円の中心とかは、我田引水じゃないの? 本当の列島の真ん中ってどこなのかしら? 興味あるわ」
「そうだね、列島の真ん中ではないね。どこが真ん中かわからないなぁ。あとでスマホで調べてみよう」
「気になるからお願いね」

車は横浜市内の渋滞に囚われてしまった。
車はのろのろと進む。
止まってる間に畑山は気になるのかスマホを触っている。
真奈美の存在は忘れているような執心ぶりである。

横浜を抜け出て車は進みだした。
戸塚を過ぎる。
その先は藤沢である。
藤沢から江ノ島はもう目と鼻の先である。
しかし藤沢市内も混雑である。
抜け出して江ノ島に着いたころには、もう昼の時間となっていた。

「昼ごはんにしようか?」
「いいわね! どこに案内してくれるの?」
「江ノ島と云えばしらす丼が美味しいよ。美味しい店を聞いてきたんだ」
「わあ、楽しみ! 行きましょう」

江ノ島を横目に、車で少し鎌倉方面へ走り、腰越漁港近くの店で昼食となったのであった。
店に着いてみると、10人ばかりの行列である。
「行列の店は美味いんだ。並ぶの構わないね?」
「美味しいものが頂けるんなら、いつまでも待ちますわよ!」
と真奈美の同意を得て行列に並んだのであった。

「先ほどの日本の中心だけど…。調べたら、日本の中心は3つの場合に分けて考えるべきとわかったんだ」
「難しいことを云うのね…。それが畑山君の良いところだけど…」
「先ずは日本領土をすべて含んだ場合の中心は、八丈島の西で浜松市の南になる」
「かなり南になるのね…」

「本土4島だけの中心は、新潟の佐渡ヶ島沖が日本の中心になる。さらに離島でも北方4島や鳥島は我々民間人は行けないので、行ける所だけの中心は、何と兵庫県の赤穂市の山陽新幹線の木津トンネルとなる。但し、スマホで調べただけだから、何ら確証はない。当たらずとも遠からずでお願いしま~す」

「なるほどね…。スッキリしたわ! さすが畑山君、有難う」
とあれこれ言ってる間に入店順番が来た。

2人とも生シラスと釜揚げシラスの2色丼を注文した。

暫くして出てきた。
生シラス半分、釜揚げシラス半分、そして海草とキザミ海苔が満載である。
白いご飯は隠れて見えない。
それに味噌汁と香の物付きである。

「わぁ~。美味しそう!」
「ウン。なかなかいけそうだね…」

期待以上に美味かったようである。
「おいしいね」
と言いながら、2人は満足したのであった。

この後は江ノ島を眺める海岸線にて2人きりのデート本番となったのであったが…。
さて、その様子は?どうだったんだろうか?

残念ながら、追跡不能となってしまったのであった。