甲子園への道は野球少年の数だけある。
一歩抜きん出ているものもいる。かなり遅れているものもいる。
しかしそんなことは構わずに、少年たちは自ら選んだこの道を走っているのである。

時には泣きながら、そして笑いながら、
仲間を思う時もある。仲間に助けられる時もある。
球場のグランドに立つまで、そして一歩でも近づこうと、決してあきらめない道である。

2人の野球少年がいる。
健太と浩也という若葉小学校の6年生である。
この2人、3年前の3年生になったばかりの時に、小学校のグラウンドに野球の練習を見に行った。
その時、コーチのおじさんから、
「僕たち野球したいんか?」
と声を掛けられ、
「してもいいん?」
「ああ、いいよ…。今日はお試しでね」
となって、グランドにそのままの遊びスタイルで入って、グラブを借りてキャッチボールとノックをしてもらったのであった。

キャッチボールは、いつも公園で遊んでいるので普通にできたが、ノックを受けるのは難しい。
ボールのところに走っては行くが、グラブにもかすらない。
フライにもバンザイをしてしまう。

満足に出来なかったが、広いグランドで走れたのは面白かった。
最後にユニホームのメンバーの後ろについて、ランニングと後片付けをした。

「君らは何年生?」
「3年やけど…」
「若葉クラブに入ってこいよな。面白いぞ…」
どうやら先輩らしい。
どう返したらよいかもわからず、「ハイ」とだけ答えて、みんなに合わせて「ありがとうございました」とグランドに一礼をしたのであった。

帰りにさっきのユニホームのおじさんから、
「こんどの日曜日にな…。3年生の新人募集をするんだけどな…。お父さんやお母さんにオーケーをもらって、来てくれよな…。君たち名前は?」
「山本健太」「斎藤浩也」
「そうか、待ってるからな!」
「はい、わかりました。今日はありがとうございました」
と答えて、おじさんにも一礼して帰ってきたのであった。

健太は家に帰るなり、ただいまもそこそこに母親に、
「少年野球、行っても良い?今度の日曜に募集するんだって…。ねえ、いいやろう…」
「そうね、お父さんに聞いてみないとね…。帰ったら聞いてみようね…」
「うん。お腹すいたすいた。なんかない?」
「もうじき夕ご飯だから、辛抱しなさい!! 宿題やったの?」
と、たしなめられたのであった。

一方、浩也も帰るなり、
「少年野球してもいい? 若葉クラブを見て来たんだけど…。今度の日曜日3年生の募集だって…」
浩也は祖父に言った。
「わしは、いいと思うけどな…。悟や文子がどういうか…。わしからもいってやるがのぅ…」
「おじいちゃん、頼むな…。それまで、宿題して賢くしとこ…」
と浩也のところも、つかの間の保留である。

健太は父の幸太郎がそろそろ帰るのを待ちかねて、玄関の外で立っていた。父の顔を見るなり、
「お父ちゃん、少年野球に入っていい?」
とドキドキしながら聞いた。

「野球か、いいなァ…。俺もやりたかったけどな…、できなかった。思い切りやっていいぞ! しかし、勉強も思い切りするんだぞ! 約束出来るならいいよ」
「うん、約束する。野球も勉強も頑張る…」
父の鞄を抱えて、先に玄関を勢い良く開けた。
「ただいま~ぁ!!」

浩也はどうだったろう?
まず母が帰って来た。
「お母ちゃん、野球していい? 健ちゃんもするんだ…」
「急に何を云うかと思ったら、この子は…。お父ちゃんに聞いて見なさい。もうすぐ帰ってくるから…」
「は~ぃ。」
もうしばらく待たされることになった。

浩也の両親は2人とも小学校の先生をしている。
仕事柄、日頃から生徒たちに勉強して偉くなれ偉くなれと云っている
その関係もあり、わが子には常にトップの成績でいるようにと願っている。

「お父ちゃん、少年野球したいんだけど…」
と子供から唐突に言われた。
「何、野球? だめだ、ダメだ!」

そろそろ塾通いして、勉強のペースを上げようかと云う矢先に、子供から遊びの話し、それも将来を左右する話が出て、本当はどうしたもんか迷った。

ダメだとはいったものの、ここは子供の考えをちゃんと聞いてやるべきだと、思い直し、
「お風呂に入って、ご飯食べてから、もう一度話して見ろ…」
と言い直したのであった。

浩也は言った。
「野球は面白そうなんだ。走ったり、投げたり、打ったり…。一所懸命やって、プロの野球選手になるからさ…。応援して…」
おじいちゃんからも、
「浩也はすばしこい奴だから、やらして見たらどうだ?」
助け舟が出た。

父と母は目配せした。
「浩也、途中でやめたい、なんて言うなよ! それと、勉強はいつも学年でトップを取れ! それが約束できるなら、やっていいぞ!」
と出た。
「わかった。僕、頑張るから…」

2人の3年生、次の日曜日、学校のグランドへ勇んで出かけたのであった。
心配な両方の家の大人たち、健太の両親、浩也のおじいちゃん、こっそりと後から付いて行ったのであった。

それから、毎週毎週、土曜日と日曜日そして間の水曜日、野球の練習が始まったのであった。
練習と云っても、キャッチボールとランニングだけ。
ボールの投げ方や捕り方は時々見てくれるが、大部分の時間は自分たちだけで、明けても暮れても、投げる、捕る、走るだけの毎日であった。

世話係は毎回子供の両親がすることになっている。
両家のお父さん、おじいさん、時間を見つけてはグラウンドに通うこととなり、野球一家に否が応でもなって行ったのであった。

監督は一か月経ったころ、子供らに聞いた。
「君らの目標は何だ?」
答は「甲子園!」、「プロ野球!!」半々ぐらいであった。

そして4年生になった。
そろそろ野球らしい練習に切り替えて行く時である。
子供たちの能力を見て、守備ポジションが決められる時がきた。

健太はみんなの中では身長が高い。
地肩も強いのか、遠投は一番である。
浩也も背は高い方だが、がっしりとした体格になって来ている。
遠投は健太に次いで2番。
そして頭も良く、何やかやと世話好きである。

2人のポジションは決められた。
健太はピッチャー、浩也はキャッチャーでキャプテン。
暫定的にこうして、練習をしていくことになったのである。

西条監督の決めたポジションのまま練習は続けられた。
野球らしい形になってきた。
そして、ルールも細かいところまで、しつこいくらいに叩き込まれた。
声を出す練習も、声がかれるまでやらされた。

いよいよ5年生になった。
春の市民大会、少年野球の部に若葉クラブBチームで参加することになった。
相手は強豪、去年の秋の大会に優勝した朝日イーグルスAチーム、6年生チームである。

試合前の練習、ホームベースを挟んだ整列と礼、最初のイニング、と進んで行く。
5年生は全員頭真っ白、何が何だかわからない内に進んでいく。
声を出す余裕もない。
健太も球は一所懸命投げたが、どんな球を投げているのか自分でもわからない。
打たれたのかどうかも覚えていない。

5回を過ぎて、コールド負けしてしまった。
13-1である。
なんかわからんうちに、1点は取れていた。
試合が終わって、父兄席に挨拶にいった。
皆、手を叩いて「よくやった。」と言ってくれた。
子供らは皆、泣いていた。

片づけを終えて、監督を先頭に会場から出た。
球場の外でのミーティングである。
監督の第一声、
「よくやった。今の6年生は去年、17-0で負けた。お前らの方が優秀だ。明日からまた練習だ…。今日は解散…。ただし、思うところを紙に書いて、次の時に持って来るように…。以上」
健太と浩也の初戦は終わったのであった。

次の大会では、よその6年生のチームに勝ってベスト4まで行った。
そして秋には、市民大会で決勝戦まで行った。
相手は、若葉クラブAチーム、自分の所の6年生のチームであった。
監督は「勝て、絶対に勝て!」と激を飛ばした。

5年生たちは向かっていった。
4回までは3-1でリードしていた。
6回になっても4-3でリードしていた。
そして7回の裏になった。
6年生の攻撃である。
「ここを凌げば、勝てる」
全員がそんな思いであったのだろう…。

2アウトまで来た。あと一人である。
健太は意識したのであろう、フォアボールでランナーを出してしまった。
しかしまだ、あと一人である。
2ストライクまで来た。
ただしボールも3つまで行っている。
もうフォアボールは出したくない。
ど真ん中へ、渾身の力を込めてストレートを投げた。

打たれた。
右中間真っ二つである。
ランナーは一人ホームに還った。そして返球が間に合わず、二人目も還ってしまった。

勝てる試合を負けてしまった。
終わってのミーティングでは、健太は真っ先に言った。
「ゴメン、打たれた。ゴメン…」
しかし監督は言った。
「あそこが一年間の差だ。よく覚えておけ!!先輩に教えて貰ったろう…。さあ練習だ…。今日は解散! 以上!」

6年生になった。
もう市民大会レベルでは負けなかった。
健太や浩也の家には、金メダルがいくつも並んでいた。

夏の県大会の代表になった。
バスに2時間乗っての遠征である。
グラウンドの外で集合した。
皆、強そうに見える。
開会式があって、その後2試合した。
全部勝った。

次の日もバスで出かけた。
今日は決勝まで行けば、3試合である。
3時ごろから決勝戦になった。
健太は連投である。
もうかなりへばっている。肩も痛い。
しかし誰にも言えない。歯を食いしばって投げた。

7回表まで来た。5-2である。
ここを抑えれば優勝である。
健太の踊る心と冷静になれと云う心が戦い始める。
2アウトまで来た。
これを最後の打者にしたい。

渾身のストレートを投げた。
バットに当たった。
鈍い音である。
ファーストの裕ちゃん、ライトの高ちゃんが走った。
裕ちゃんがフェンスぎりぎりで、ファールフライを捕った。
終わった。
勝った。

表彰式があった。
メダルを掛けてもらった。
一段と大きい金メダルである。
優勝旗はキャプテン浩也の手にしっかりと握られていた。

後片付けをして球場を出た。
「よう頑張った! これが実力と思うなよ! 実力はまだまだ下だ! ラッキーだったと思え! さあ帰ろう! ごくろうさん! 以上!」

少年野球は終わったのであった。
6年生の健太と浩也の甲子園への道、
次はどう続いて行くのだろうか?

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