「ゆ」の酒は「雪の松島」と云う酒を手に入れた。
松島という命名だから東北・宮城の酒である。
東北の酒は一般的に濃醇辛口である。

手に入れたのは、特別純米酒 生貯蔵酒であった。
データは、度数14~15度、精米歩合60%、日本酒度+3、酸度1.6である。

呑んでみると、データ以上に濃醇で辛口である。
しかし辛口と云ってもスッキリした辛口ではある。

雪の松島の酒蔵は、現在は黒川郡大和町にある「TWG酒造」である。
過去には「MG酒類」と云う酒蔵で醸造されていたが6年前に解散し、その商標を酒類販売の大手、全国チェーンの「㈱YMY」が譲り受け、醸造・販売はその子会社である「TWG酒造」が行っているのである。

更にこの酒蔵「TWG酒造」の前身は山形県高畠町にあった会社で、江戸時代から180年の歴史を持つ会社であった。
今から17年前に宮城県の大和町に移転と同時に「㈱YMY」の子会社として法人化し、現在的な製造プラントを構築して現在に至っている。

何かややこしい話であるが、酒蔵はワインで良く知られる山形高畠から現地へ、酒銘は同じ宮城の酒蔵から譲り受けた酒であるということである。

山形の高畠町と宮城の大和町は両方とも豊穣の地を指し、それぞれ地域の中心として栄えた歴史を持っていると云う関係にある。

この蔵も南部杜氏が活躍している。
杜氏の仕事は、伝承と経験により美味しい酒を仕込むことであるが、それがいつも上手いこと行くわけではない。
失敗すると一年間棒に振ってしまうことになる。

酒造りのサイクルは一年である。
従って改良しようとどこかを変えたとすると、結果は何か月も経たないと分からない。
また、同時に何か所も変えたのでは何が何だか分からくなる。
変えるのは一ヶ所のみである。

一般に技術開発と云うものは、一つ変えては一つデータを取る。
満足いかなければまた一つ変えてデータを取る。
その繰り返しであるが、サイクルの長さが違う。
酒造りは一年毎にしか変えることができない。
長丁場である。
気が遠くなる仕事である。
しかし、このような杜氏の方々の努力があるからこそ、美味しい酒が飲めるということになるのは間違いがない。

「TWG酒造」のある大和町は旧古川市を中心に合併した大崎市と大都市仙台市の中間あたりにある。

かつて、全国の「大和」の名を持つ12の市町村で「まほろば連邦」が結成され、サミットが
行われたことがある。

「倭(やまと)は 国のまほろば たたなづく 青垣 山隠(やまこも)れる 倭しうるはし」という倭健命(やまとたけるのみこと)の望郷歌に基ずくものであろう。

この宮城の大和町で第1回サミットが開催されたが、平成の大合併で大和が付く町村が数多く廃止されるに至って、第16回サミットを持って終了・解散となったのである。

しかし、その大和繋がりはその後も継続されていると云う。
東日本大震災では、この宮城の大和町に神奈川県の大和市から義援物資が贈られたという話もある。

先日、宮城の仙台へ行く機会があった。
街のあちこちから復興に向けた槌音が聞こえて来る。

昨年の今頃行った時は、結構静かであったのに、現在はエンジン全開のようである。

来年のこの時期になると、復興宮城が出来上がっているかのような勢いを感じた。

〔ゆノ酒 完〕