「ふ」の付く酒、神戸灘の「福壽」を選んだ。
以前、あるデパートの酒売り場で、この酒蔵から来ている販売員の方が店頭キャンペーンをやっていた。
勧められたが、その時「あとでまた来ます」といいつつ、行かずになってしまっていたことを悔いていたので、今回、「ふ」の順番が来たのでこの酒を手に入れたと云うのが本音である。

福壽を醸造している酒蔵は株式会社SSKと云うが、酒と云うよりも酒蔵がやっている料亭「さかばやし」として知っていて、以前そこにはお邪魔したことがある。
六甲山から車で降りてきて、徳井、乙女塚を通り、国道43号線の東明交差点のすぐ東南にあるところである。

古風な酒屋らしい長屋門があって、注連縄と杉玉が吊るされている。
門を入ると左手に「さかばやし」へのアプローチ、右に展示場や販売場もある東明蔵、正面に事務所やイベントホールが建っている。
このSSKは、他の灘の酒蔵と同じように先の阪神淡路大震災で木造建物は全て倒壊し、翌年再建を図っているので、見た感じは新しい酒蔵に見える。

余談であるが、乙女塚と云う交差点の名前は珍しい。
この場所には乙女塚と云う70mの前方後円墳がある。
築造年代は4世紀の前半と推定され、国の史跡指定されている。
またこの西には西求女塚古墳、東には東求女塚古墳があり、万葉集や大和物語などに登場する悲恋伝説の舞台として知られている。

さて酒である。
入手した酒は、福壽純米酒「御影郷」である。
早速頂いてみよう。
濃醇な味わいである(酸度1.4)。
そして辛口でもある(日本酒度+4.0)。
酒を飲んだという感じのする満足の行く酒である。
さすが酒処神戸の地酒という味わいの酒であった。

福壽と云う名前は、七福神の「福禄寿」に由来すると云う。
飲む方々に、財運が来るようにとの願いを込めたと云われる。

この機会に神戸の大手の酒蔵の並びを見てみよう。
この福壽の西には、富久娘、沢の鶴がある。
ここら辺りは神戸の灘区である。
灘五郷の西郷にあたる。

福壽から東へ行くと、白鶴、菊正宗、剣菱と大手が並ぶ。
この辺りは御影郷である。

更に東に行くと櫻正宗、浜福鶴、そして松竹梅白壁蔵と並ぶ。
この辺りは魚崎郷と云われる。

更に行くと神戸市を外れ、芦屋を通過し西宮に至る。
白鹿、白鷹、日本盛と並ぶ。
西宮郷と云われる。

さらにその東には大関がある。
今津郷と云われる。
その他にも多くのブランドが存在するが、割愛させて頂いた。

さて、話を福壽に戻そう。
福壽の創業は江戸時代中期である。
創業の精神は生産量を追わず、おいしさを極めること、そのために手造りによる丁寧な酒造りを行うこと、即ち「箱麹法」といわれる完全手作業の麹造りを行っていて、今も続けられている。

この福壽には他の酒蔵にない話がある。
昨年のノーベル賞で、iPS細胞の発明で知られる京大の山中伸弥教授が医学生理学賞を受賞した。
そして授賞式後の晩餐会では、日本酒が提供された。
その提供されている酒は、この神戸SSKの「福寿 純米吟醸」であった。

このノーベル賞における日本酒の提供は、以前の受賞、小林・益川氏の物理学賞の時に、福壽のスウェーデンの取引先が晩餐会にと、主催側に薦めてくれたのがきっかけとなったそうである。
そしてそのまま日本人が受賞した際の定番になっていると云うことである。

受賞後の晩餐会では、福がもたらされた後に呑む酒なので、福壽を呑めば福を招くという主旨とは少々違うのではと思われる。
しかし、酒蔵にしてみれば、大変誉の高いことであるに違いない。

〔ふノ酒 完〕