「て」の酒、石川県の「天狗舞」を入手した。
かつての仕事仲間にこの天狗舞の信奉者がいて、一緒に飲みに行ったりすると先ずは天狗舞を注文する。
当時は日本酒にあまり興味が無かった小生も、止むを得ずご相伴に預かったものであるが、味の程はさすがに記憶には無い。

天狗舞と云えば石川県の、現在は白山市と云うところにある酒蔵である。
白山市は平成の大合併で成立したもので、1市2町5村が合併して誕生した大きな市である。
その1市とは日本海側の松任市、それに連なる白山山頂までも含めた市となった。

その結果白山市は、白山の広大な山域を含み、石川県内の自治体では最大の面積となっている。
白山市は金沢市の南に隣接する市であり、人口では金沢市に次いで2番目になっている。

また白山市は、白山を源流とする石川県内最大の川・手取川が市域の南側を流れていることでも知られる。
手取川を酒銘とする「手取川」という「て」の付く酒も白山市にはある。
今回どちらの酒を選ぶべきかと迷ったが、先に手に入った天狗舞に軍配が挙がったのである。

天狗舞の酒蔵はST酒造という。
創業は江戸時代の文政年間、1800年代の初めの頃である。

天狗舞は当初から、純米酒とその山廃仕込みにこだわっている。
酒瓶にも「山卸廃止?仕込」と書かれている。

山廃とは、酒母の製造方法の一つで、古来からの酒母造りの伝統をに基づく手法である。
仕込みの時に乳酸を添加せず、自然界にある乳酸菌を取り込み、低温でじっくりと乳酸発酵させる。
通常の酒母の製造に比べて育成時間が約2~4倍以上かかり、また温度も5℃以下でないといけないということになる。

自然の姿で育てた酒母には、頑強で活き活きした酵母だけが生き残る。
最近は殆どの酒蔵が乳酸を添加した即製酵母を採用しているため、このような山廃を扱える蔵人が少なくなったとも云われている。
天狗舞ではこの山廃をあくまでも守り、きめ細やかでふくらみのある酒を造っているのである。

さて、前置きが長くなったが、天狗舞を頂いてみよう。

手に入れた天狗舞純米酒山廃仕込みは、2011年のロンドンのIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の「SAKE部門」純米酒の部で最高の栄誉ゴールドメダルを獲得した酒である。
原料米は五百万石で精米歩合60%、アルコール度は16度、少々濃いめである。
日本酒度は+3.0、酸度は1.8、 少しの辛口そして濃醇である。

さすがに濃厚であるが、本来の米の味のようなフルーティーさはない。
米を少し炙って酒にしたような味である。
喉越しはスムーズ、辛口であるが爽やかな辛口である。

変わっていると云えは変わっている味であるが、しっかりとした味である。
醸造アルコールで薄めたような酒とはかなり違う。
これぞ通の酒なのかも知れない。

最近、金沢や富山へ行く機会があった。
この辺りでは北陸新幹線の建設工事が進んでいる。
北陸在来線の電車に乗って沿線を眺めていると、あちこちに高架橋のコンクリートが見える。
また富山駅や金沢駅の建設も進んでいる。
この北陸新幹線、再来年には営業運転が開始されるという。

この新幹線の基地が現在、金沢駅の西10kmの白山市域に建設されている。
白山総合車両基地と云う名称だそうである。
上手く行けば白山市までは営業運転もされるようである。

しかし、その南部、更に福井県域までの伸延はまだまだかかるようだ。
福井まで来てそこから東海道新幹線と結ぶ案も検討されている。

天狗舞を呑みながら考えた。
福井と云えば原発の立地県。
関西の電力事情に大いに貢献してくれている。

新幹線敷設と原発立地地域、何らかの関係が有りや無しや、外野はやきもきするばかりである。
天狗様に大いに舞を舞って欲しいものである。

〔てノ酒 完〕