かつて小生が小さかった頃、親父が「酒は沢の鶴が一番美味い」と良く言っていたのを思い出す。
当時は酒のことは何もわから無かったが、この酒シリーズで日本酒を味わうようになって、そのことを思い出したのであった。

「沢の鶴」は神戸灘五郷の西郷の酒蔵である。
西郷と云えば灘五郷の一番西、神戸市の灘区である。
神戸港摩耶埠頭に近い都賀川の河口付近の場所にある。

創業はかなり古い。江戸時代の享保の時代の創業である。
当時の屋号は「米屋」と云い、両替を主に扱っていた。
また大名の蔵屋敷に出入りして藩米を取り扱う仕事も行っていた。
別家の米屋喜兵衛という人が米屋の副業として酒を造り始めたことが始まりと云われている。 従って、現在でも商標として「※印」を用いる場合があるのはそのためである。

沢の鶴のST酒造は、大容量カップ酒の先駆けの1.5カップを発売したり、非純米酒である「米だけの酒」を発売したりした。
また、全国で初めての酒蔵の公開資料館「沢の鶴資料館」もオープンしている。

米だけの酒について云えば、原料が米であれば何でもありで、恐らくは酒税の関係で、安く提供できる酒を狙ったものであろうと思われるが、後年の酒税改定により、現在は純米酒になって、それを販売していると云うことである。

先日、この紙パックの米だけの酒を購入して飲んでみた。
値段は安い。
味はどうか? アルコール度が14.5度とほんの少し薄いせいだろうか? 紙パックのせいだろうか? 少し物足りないような気がした。

ST酒造は純米酒にこだわっていて、大量に生産している。
それは「純米酒 山田錦」である。
この酒は良く手に入れる。
財布に優しいお手頃価格で重宝している。

日本酒度+3、酸度1.4とのことで、淡麗で軽い辛口である。
これは正真正銘、米と米麹だけを使って造ったものである。
但し、酒造好適米を100%使用しているが、うち山田錦は55%だそうである。
磨き具合は65%、西宮から汲み出した宮水を使って仕込んでいるとのことである。

飲み慣れているせいか、抵抗なく美味しく頂くことができるのである。

少しの薀蓄となるが、純米酒とそうでない酒について触れてみる。
それは醸造用アルコールを混ぜて度数や味を調整しているかどうかと云うことである。

その醸造アルコールとは、廃糖蜜、精製糖蜜、甜菜糖蜜などの含糖質や、米、サツマイモ、トウモロコシなどの澱粉質を用いて作製されたアルコールのことである。
工業用アルコールとは違って植物由来のアルコールなので全く体には害はない。

しかし、醸造用アルコールを添加することで、濃厚な米だけの味が薄められることは否めない。
但し、元々濃いものについては薄められ、美味しく調整されると云う効果もあり、一概には言えないので、その時々で楽しめばいいと思う。

ST酒造に戻る。
ST酒造も例に洩れず阪神淡路大震災では被災した。
先ほどの「沢の鶴資料館」も全壊したそうである。

しかしながら関係者の努力で、当時の建物を再建していて新しい資料館として公開されている。
2度と倒壊しないために、全国では初の木造免震構造を採用しているとのことである。

これからも庶民志向で、美味しい純米酒を出し続けて欲しいものである。

〔さノ酒 完〕