「り」の付く駅は今までと趣向を変えて、滋賀県栗東(りっとう)市に設置される計画であった東海道新幹線「栗東新駅」を訪ねてみることにする。
栗東新駅は2006年に建設着工がなされたが、知事選で建設中止の旗印を掲げたK知事が当選したことから、翌年に建設中止となり、現在に至っている幻の駅である。

新駅予定地(跡地?)へはJR草津線の手原駅が最寄である。
手原駅は栗東市の中心駅で、南方向にある市役所やショッピングセンターの前の広い通りが北上し、この駅を終点としている。
市役所と駅の間には旧東海道が横切り、街道の面影も残っている。

手原駅で下車し少し南に下がり、旧東海道を西の草津方向へ向かう。
暫く行くと自動車道に出る。
その自動車道を少し行くと国道1号線との交差点である。
国道に沿って南の交差点「上鈎(かみまがり)」まで行き、そこで交差している自動車道の舗道を西へ歩く。

 

 

 

JR草津線の線路を高架橋で渡る。
この跨線橋から原っぱが見え、その向こうに新幹線の線路が見える。
ここが新駅予定地であった主要部分であろう。
乗り継ぎ駅として広場の横を走る草津線にも駅が予定されていた所である。

余所者であるのでとやかくは云えないが、なぜか侘しい気がする風景である。

新幹線の線路の右手向こう側は線路に沿ってSS化学の大きな工場が連なっている。
他の所も見てみようと新幹線のこちら側の道なき道を東京方向に歩いてみる。

一定の幅で空き地が連なっている。
所々に工場も建っている。

新幹線の16両編成は400mであるので、駅のホームや線路のポイントや信号所を入れると1kmぐらいの長さの用地は必要となるのであろう。
それと駅開設に合わせて、栗東市の施設も造る計画であったそうである。
そうなると更に広い土地は要ることになる。
その部分は用意できていたような空き地の具合である。

線路から少し離れて大きな工場ができている。
ハイブリッド自動車用のバッテリーを造る会社である。
駅計画中止後にいち早く跡地活用として建てられた本社・工場だそうである。
Gバッテリー会社とMBグループ系の合弁会社で、既に操業を始めているとのことである。

栗東市には名神高速道路のICがあるとともに、国道1号線と8号線が交わる場所であるので、物流の利便性が良い場所であることに注目したものでもあろうか…。

話は栗東新駅に戻るが、このように地元の要望で建設される新駅は請願駅と云われる。
駅の建設費用は原則地元負担である。
運営費も地元負担となる場合があるようである。
住民の方々の税金の中から支払われるので、慎重な議論が要るのは当然であろう。
意見や決定も紆余曲折するのは仕方のないことである。

東海道新幹線では三島駅や新富士駅、掛川駅、三河安城駅がこの請願駅にあたる。
これらの駅の一日の乗降客は4、5千人から1万人以上もある。

一方、山陽新幹線では新尾道駅や東広島駅がこれにあたる。
これらの駅は在来線がない独立駅であるためか、一日の乗降客が千人程度しかないと云われる。
地元では「請願駅の失敗例」として引き合いに出されることがあるという。

もし栗東新駅ができていたらその利用状況はどうなのかは分からないが、乗り換えの在来線駅もあるし、近隣は工場地帯であるから、それなりの乗降客は確保できるものとは思われる。
しかし大阪・京都への通勤通学は在来線で行ける。
また観光もそうあるわけではない。
丁度、名古屋駅の隣の三河安城駅のようなパターンであろうか?

しかしその良し悪しは地元の人でないと分からないであろう。
議論されての結果だからそれで良いのだと思う。

昨年8月、同じ滋賀県のK知事が前言を翻すような発言をした。
「東京-大阪を結ぶリニア中央新幹線開業後、滋賀県内に東海道新幹線の新駅が必要である」 との発言である。
K知事によれば、リニアが開業すれば東海道新幹線は各駅停車主体の運行となるため、県内に新駅設置が必要とのことである。

新駅中止により、残された土地の活用も決まっていない。
新駅を別の場所にと云う訳にもいかないと思う。

駅は沢山あるに越したことがない。
しかし建設費用とか、運用費用とかの負担がかかるので、その経済効果を判断しないとはいけない。
あっちへ揺れたり、こっちへ揺れたりするのは仕方のないことであろう。

今後、再び栗東新駅の計画が俎上に上るのであろうか?

〔りノ駅 完〕