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 仕事で東北地域の福島県に出かけた。
福島の県央に郡山と云う駅がある。
東北新幹線、東北本線の停車駅に加えて、在来線3線がここを起点とするJRの要衝駅である。
 郡山と云えば美味しいラーメンや蕎麦処と勝手に思い込んで期待して下車した。
有名な喜多方ラーメンは駅ナカにあったが、このラーメンは今や全国版、どこでも食べられるのでとりあえずパス。
今回目的の白河ラーメンの店はないし、蕎麦屋さんも見当たらない。
 郊外へ出るとあるそうだが、その時間も取れなかったので、今回は諦めて名物土産に触れるだけにして、駅売店を探索した。
 郡山と云えば、K屋の「薄皮饅頭」が有名である。
以前から、東北出張の折りや都市のデパートなどで良く目にしていた。
新幹線のワゴンでも販売している。
ありふれた名で魅力が感じられなかったので、今まで素通りしていた。
 と云うのも「うすかわまんじゅう」と称する饅頭は全国各地に見られる。
思いつくだけでも、和歌山や名古屋、愛媛の八幡浜などは有名である。
和歌山のは、白い皮でところどころ透けるように薄いと記憶している。
 その他にもスーパーの食品売り場などで、同じ名前のをよく見かける。
黒糖まんじゅうと云う風な名前もある。
皮が薄くて、その分アンコが多くて美味しく食べられるというネーミングであろうか?
 いきなりの講釈で申し訳ないが、薄皮まんじゅうの種類は沢山ある。
 まずは温泉饅頭、
伊香保温泉で始まったというが、今は全国の温泉で売られている。
生地に温泉水を使う、蒸しの過程で温泉の蒸気を使うことから、名前が付いている。
伊香保温泉の湯が鉄分を含む茶褐色だったので、茶褐色の色になったそうである。
しかし、どこの温泉の色も茶褐色な訳はない。
黒糖を混ぜて風味と色をつけたと云うことだろうか?
 もう一つは利休饅頭、
ご存じ茶聖千利休が好んだという茶菓子である。
これは皮に黒砂糖を混ぜ、中にアンコが入った比較的小ぶりの饅頭である。
これも全国にある。薄皮饅頭の代名詞のようになっている。
山口宇部や山陰浜田などが有名である。
 郡山駅の土産物街にK屋の専売店があったので、行ってみた。
お茶と試食が出されたので、食べて見た。
 皮も餡子もかなりしっとりしている。
今まで食べた饅頭は口の中で食べられまいとする饅頭の抵抗感があったが、これは歯や口中への馴染みが極めて良い。
スルッと食べてしまえる感じであった。大変美味く頂いた。
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「ここの薄皮饅頭は美味しいですね…、秘密は何?」
と聞いてみた。
皮の生地には沢山の黒糖を混ぜていることと、長年の製造の技術の蓄積だそうである。
そう云えばこのK屋、創業は江戸末期1852年だと云う。
ここ郡山で本名善兵衛(ほんなぜんべえ)という初代がこの饅頭を考案したとされる。
この郡山宿で薄皮茶屋という店を開いて、旅人相手に販売したという。
 幕末近しの不穏な時期でもある。
商売が上手くいったかどうかは分からないが、今日まで順調に店が発展してきているのは立派であろうと思われる。
 お土産に1袋買い求めて、郡山を後にしたのであった。
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 しかし、よくよく考えて見ると、
この時代東北で黒糖なんて手に入ったんだろうか?という疑問が出てきた。
 砂糖について調べて見た。
元々、日本には砂糖原料のサトウキビが無かったので、砂糖は外国からの輸入に頼らざるを得なかったのである。
 最初は奈良の唐招提寺に祀られている唐から来た僧「鑑真」によって伝えられたとする説が有力であるが、遣隋使や遣唐使が複数持ち帰ったものであろう。
 その後、室町期になって南蛮貿易が開始され、あの織田信長に砂糖が献上されたと云う話がある。
そのころから、砂糖の輸入が増え始めたが、まだまだ上流階級のものであった。
 江戸時代の初めに、中国から奄美大島へ密かにサトウキビと砂糖の製法が伝えられ、日本国内でサトウキビの栽培が始まったとされている。
同じころ琉球王国でも栽培が開始されたと云われる。
 江戸中期、享保年間のこと、八代将軍吉宗は琉球からサトウキビを取り寄せ、江戸城内で栽培したと伝わる。
そして、米作の奨励とともに、サトウキビの栽培も奨励したと云われる。
讃岐の和三盆などが開発された。
そしてこのころから、砂糖の大衆化が始まった。
しかし、砂糖の値段は米の数倍もしたことから、庶民には馴染めなかったと云う。
 幕末のころ鹿児島薩摩藩では、砂糖製造を藩の主要事業として、外国から機械や技術者を導入し、砂糖を増産したと云われている。
この鹿児島の黒糖が、郡山の薄皮饅頭の製造へと流通し、饅頭製造を行ったとされている。
 この時期、郡山の西の会津では鹿児島始め倒幕軍に武力で攻め込まれている。
砂糖を売り金儲けする一方、隣で武力を行使し、国を壊滅させる。
それも遠くの余所の土地で…。
どういう了見だったのだろうか…?
 話は砂糖から離れるが、
今回の仕事先の交流会で、最後にご当地の蕎麦が出た。
鶏も加わった辛めの出汁で、麺も歯切れのよい東北麺。
これも大変美味しかった。