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 大阪・京都間を走る京阪電車の枚方公園駅の駅の近所に「くらわんか餅」の販売店がある。
長い間、この餅のことは気になっていたが、今回思い切ってこの餅を求めるために途中下車した。
 枚方公園のある枚方市は大阪府の東北部、北河内の最北部、京都府に隣接する市である。
淀川を下り、京都府から大阪府に入ったところの左岸に開けた町である。
枚方公園駅と云えば大阪やその近郊の方にはなじみ深い「ひらパー」で知られる遊園地「ひらかたパーク」の下車駅である。
 この駅の西側には淀川が流れ、江戸時代は京・大坂の間を多くの船が上り下りしていた所である。
当時は、その淀川を行き来する三十石船に鍵爪をかけて、船を横付けして、
「餅、くらわんか!」
「飯、くらわんか!」
「酒、くらわんか!」
と、船客に食べ物を売り付ける物売りの叫び声が賑やかであった。
「銭がないからようくらわんか!」
と、買わない客を罵るのも常であった。
「くらわんか」とは「食べませんか」という意味の、地元の少々ガラの悪い言葉である。
 この商売は、江戸初期の大坂の陣の時、この付近の船頭たちが徳川方の物資運搬に協力したということで、幕府から営業権を与えられ、さらに大名でも誰に対してでも、地元の言葉遣いのまま商売しても構わないという不作法御免の特権も与えられたので、このような手荒い商売のやり方になったものと云われる。
 この「くらわんか」を今に伝えるものがいくつかある。
その一つが今回尋ねる「くらわんか餅」である。
販売しているT堂は駅からバス通りを山手の方に歩いた左手にある。
 小振りな茶店風である。
この辺りは駅近と云うことで、マンション様のコンクリートの建物が多いが、その中にちょこなんと置かれている。
幟、貼り紙などあって、直ぐに分かる店である。
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 引き戸を開けて入った。
小さな店であるので、商品の量は少ないが数は多い。
それも「くらわんか○○」のネーミング商品ばかりである。
大抵の和菓子の種類は網羅しているのではないかと思われる、そのような店である。
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 目的の「くらわんか餅」は直ぐに見つかった。
「くらわんか焼き餅」とのセット販売である。
3個3個の6個詰めの箱入りである。
早速買い求めたのであった。
 くらわんか餅は、柔らかい餅を餡子で包んだものである。
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小豆餡と枝豆餡の2種類。
小豆餡のは、伊勢の赤福餅を少し大きくしたようなもの。味もそのようである。
枝豆餡のは、仙台のずんだ餅状であるが、色は少しダークがかっている。
食べてみると、ずんだ餅に似たような味がする。
現代風な味で美味しい。

 江戸の当時はどうだったんだろうか?
江戸時代、それも末期ごろになるまでは砂糖も十分に手に入らなかったであろう。
甘さ控えめのヘルシーな味であったのではないかと思われる。
 くらわんか船でのこれらのくらわんか餅の販売は皿に乗せて販売したと云われる。
食べ終われば当然のことながら食器は回収である。
 これら食器類は長崎の波佐見焼が主流であった。
江戸時代、この波佐見焼がくらわんか椀の名の下、大量生産され大ヒットしたそうである。
この食器は有田や伊万里などの赤を使わないコストダウンのイメージで、庶民の間に入って行き、現在の食器のルーツになったと云われている。
 またこの縁で、枚方市と波佐見町は「くらわんか交流のまち」として、現在も交流が続いているそうである。
 寒い冬である。
くらわんか餅を入手した後、枚方宿のメイン通りを覗いて見たが人は皆無。
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 この時期、観光する物好きもいないのであろうと思った枚方であった。