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 阪急電車の京都本線が北上して、右前に折れて桂川を渡る手前に桂という駅がある。
 この桂駅からは嵐山方面へ行く支線の電車が出ていて、渡月橋方面に行くことができる。
 今回はこの桂駅で降りて、有名な桂離宮の方向に歩いて見ることにする。
 桂離宮は予約しないと参観出来ない。
 今回は思いつきの途中下車であるので、行っても周囲を眺めるだけであるが、やむを得ない。
 桂駅のロータリーから東に進む。
 この道は京都駅の八条口を通る八条通りをずっと西に辿ってきた道である。
 駅前は銀行や商店オフィスビルが続くが、そのうち住宅やマンションが多くなる。
 暫くして、桂川街道という広い道と交差する。
 下桂という交差点である。
 その交差点も真っ直ぐ進んで行く。
 昔から開けたところらしく、虫籠窓の町屋もいくつか見られる。
 程なくブロック塀であろうか、コンクリートの塀で囲まれ木が茂ったところが左手に見えてくる。
 桂離宮である。
 矢印に従って左折し、桂離宮の入り口まで到達した。
 周囲を巡って入口に来たが、これ以上は入ることができないのは仕方がない。
 しかし、以前に見学はさせてもらっているので、内部の様子についてその時の記憶を辿って見ることにする。
 桂離宮は、書院、茶屋、回遊式庭園から成る皇族の別荘として造営された。
 造営は戦国時代も終りを迎える頃で、八条宮家の初代智仁(としひと)親王、引き継いで智忠(としただ)親王と、2代に渡り数十年かけて行われたものである。
 尚、智仁親王は、正親町天皇の孫で後陽成天皇の弟に当たる皇族である。
 初め豊臣秀吉の猶子となったが、秀吉に実子が生まれたため、養子を解消し、八条宮家を創設したことで知られている。
 桂離宮の書院は「古書院」「中書院」「新御殿」の3つが繋がるように建てられていて、その構成は見事である。
 茶屋は松琴亭(しょうきんてい)、賞花亭(しょうかてい)、笑意軒(しょういけん)、月波楼(げっぱろう)の4棟、それに持仏堂の園林堂(おんりんどう)から成る。
 書院や茶室は桂川から引かれた水を使った池を巡るように配されていて、池を通して見る建屋の風景を愛でながら、回遊することができる。
 この桂離宮は、栄華を極めた平安貴族、藤原道長の桂殿の跡地に建てられたもので、その証拠も多数見つかっている。
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 当時造られた離宮としては、修学院離宮も良く知られている。
 なぜこのような平安貴族趣味の離宮がそのころになって造られたのか? 疑問である。
 丁度、このころは徳川家康が天下にのし上がったころである。
 政治に対しても思慮深い家康は、信長や秀吉のように皇室や公家を上から目線で見ることはなく、栄華を極めた平安時代を懐かしむ皇族貴族に当時を偲ぶ庭園を造らせ、彼らを上手く懐柔することによって、政治の蚊帳の外に気持ちよく置こうとしたものに相違ないと思われる。
 さて、離宮を回って元の八条通りに出た。
 すぐそばに桂川に架かった八条大橋がある。
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 橋の袂には高燈籠もあり、雰囲気を醸し出していた。
 橋の上から桂川の周囲の景色を眺め探索は終了した。
 橋の傍に古い町屋造りの菓子屋がある。
 名前を「KM軒」という。
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 店頭で名物を聞いてみた。
 「かつら饅頭」と「麦代餅(むぎてもち)」とのことである。
 かつら饅頭は街道を行き交いする旅人に愛用されたり、宮内庁にもご用達となっている。
 麦代餅は近辺の農家用である。
 麦代餅のことを聞いて見た。
 つぶあんを直径7~8cmの白い薄い餅で編み笠状に包み。黄粉を振り掛けたものである。
 話によると「麦代餅」の謂れは、この餅は麦刈りや田植えの時の作業の合間のおやつとして、直接田畑まで届けたものであった。
 そしてその代金は、農繁期が終わったころに麦の現物で貰ったうと云うことからその名前がついた。
 麦と交換する餅である。
 餅2個で約5合の麦で支払われたと云うことであった。
 店内にお休み処があるので、早速買い求めて味わって見た。
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 粒餡はあまり好まないのだが、癖のないスッキリした味わいであった。
 餅はつきたてであろう、柔らかく食べられた。
 しかし黄粉はのせているだけなので、パラパラと落ちる。
 落ちた黄粉を餅にくっつけて食べるような食べ方になる。
 農作業の合間に、つかの間の幸せ感を運んだ味であったのであろう。
 子供の頃、家の餅つきの時に、つきたての餅で作って貰って食べた編み笠餅を思い出したのであった。
 尚、このMK軒は創業は120年前の明治期で、この店舗も創業から少し経った頃の建築だそうである。
 客も絶え間なく訪れている。
 少し不便な場所であるので、駐車場も何か所か設けられている。
 創業からは何度も紆余曲折があったと思うが、このように長きに渡り商売が継続できているとは、見事である。