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 大阪に用があって出かけた。
丁度、昼になっていたので、昼食タイムである。
難波で前々から気になっていた「名物カレー」の店に向かうことにした。
 確か難波の駅から心斎橋に向かうアーケード街を入った辺りにあるはずだが、土地勘があまりないので、探索は難しい。
あっちの通りこっちの通り、またその横道を眺めながら探した。
既に方角も何もわからなくなっている。
 何気なく覗いた通りに、やっと見つけた…。
少し派手な店構えに「名物カレー」の幟が立っている。
店の名は「JY軒本店」という。
 100年以上も前から、洋食なりカレーなりを提供している食堂である。
100年前と云うと、日露戦争の前後位か…?
店の説明によると、大阪で最初に洋食を始めた店でもあるらしい。
当時は、自由民権運動の盛んなころで、店の名もそれから付けたとのことである。
 兎に角、店に入ってみよう…。
 そう広くはない。中央に一人客用の長テーブル、両側と入口側に4人掛けテーブルが数脚…。
客の入りは半分ぐらいであった。
 早速、注文を聞きに、そう若くはない店員さんが来た。
ちょっと考える振りをして、一呼吸おいて、
「名物カレー、普通盛りで…」
と注文した。
 たまたまであろう、30秒ぐらいで出てきた。
ある程度、作って置いているのだろうと思われる。
その証拠に、すぐ後に入ってきた客も名物カレーを頼んでいたが、こちらが食べ終わったころに出てきたのであった。
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    「名物カレー」とはどんなものか?
一応テレビ番組で見たことがあるので、イメージはあった。
 白い店の名が入った洋皿の上に、既にご飯とカレーが綺麗に混ぜられているのが盛られている。
そして、中央に設けられた窪みに生玉子が落とされている。
ドライカレーのかなりシットリしたものを想像していただければ、宜しいかと思う。
 生玉子を混ぜながら食べるのが基本だが、玉子は結構小ぶり…。
最初はまろやかな味であるが、途中で玉子がなくなると、辛くなってきた。
水のおかわりが必要となる…。
 ご飯とカレー粉と玉子だけかと思いきや、みじん切りにされた牛肉と玉葱も具として混ぜられている。
このカレーはベースとする出汁に淡口醤油を使っているそうである。
ご飯系のシットリした食べ物なので、食べるのは易しい。
瞬く間に完食してしまった。
 さて「JY軒」、もう一つよく似た店があり、同様のカレーがメインの商品である。
その店の名は「せんばJY軒」というややこしい名前である。
 この「せんば…」は多様な展開をしている店である。
大阪土産としてレトルトのカレーを販売したり、コンビニの定番商品としたり、果てはANAの定番カレーとなったり、横浜カレーミュージアムに出店したりしている。
 2つのJY軒が、競い合って商売繁盛しているのは好ましい。
しかし、どこでどうなって、こうなったのか?興味のあるところである。
 100年前の創業から、大阪万博の1970年までは一つの店であった。
この間のこの店の自慢は、昭和10年代のこと、「夫婦善哉」の作家、織田作之助が通ったことであろう。
織田さんはこの店でカレーを食べながら、話の構想を練ったり、書いたりしたと云われる。
 織田作之助の名言、
「虎は死んで皮をのこす 織田作死んでカレーライスをのこす」
と書かれた額が店に飾られている。
 1970年、万博の年に暖簾分けしたのだと思われるが、新しくせんばJY軒が成立した。
そして、せんばJY軒の新しい店のメニューの中に混ぜカレーがあり、JY軒の名物カレーと酷似している。
一方、本家のJY軒の名物カレーは頑なに創業当時の味を守り続けている。
 本家争いよりも、1社よりも2社の力を合わせて、そしてファンを多くして、この先も長く伝統を守っていって欲しいものである。