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 列車の旅には駅弁の楽しみも大切である。
 いかし最近は新幹線網の発達で、在来線特急列車が少なくなったこと、それに列車のスピードも速くなって、列車の中で長時間を過ごすことが無くなったこと、駅や周辺の食事施設が充実して、目的地まで我慢すれば美味しいものが食べられること、などなど…である。
都会地の周辺では、新幹線へ乗る以外は駅弁との触れ合いが少なくなったように思う。
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 ある日JR大阪駅から昼前に出発することになった。
 いつもは電車に乗る前に、軽いものを食べるか、到着駅周辺で食べるかであるが、今回は駅弁を買って車内で食べてみようと決めた。
 先ず駅弁購入である。
駅のコンコースを隈なく探してみた。
透明のプラスチックのパックに詰められたコンビニ弁当のようなものはいくつか見つかった。
しかし、肝心の駅弁は見つからない。
 そのコンビニ弁当らしきを売っている売店の人に聞いてみた。
「駅弁は何処に売ってるんですか?」
「東口の改札を入ったところと、11番ホームに店はあるけど…」
「早速、行ってみます。ありがとう…」
と改札内に入った。
 11番ホームへ向かう。
サンダーバードやトワイライトエクスプレスが出発する北陸線のホームである。
弁当屋さんを見つけた。
「AJ屋」という店である。
ショーケースに並んだサンプルを見てみた。
20種類ぐらいあったと思うが、殆どに売り切れの札が付いている。
「弁当どきなのに、もう売り切れですか…?」
「今、運んでくるところですよ。あと10分ぐらい待って頂けませんか…」
それぐらいであれば待とうと決めて、店員さんに話しかけてみた。
「昔大阪の駅弁で、八角弁当ってありましたよね…。少々、高かったので食べずじまいだったんですけど…。今もありますか?」
「『SR軒』さんのでしょう? 確かあそこは左前になって、一時撤退したようですけどね…。うちは店が違いますから、八角弁当はないですけどね…」
「それは残念です。一度食べたかったんですけどね…」
「ほかのも美味しいですよ…」
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 しかし、中々弁当が到着しない。
待ってても、蕎麦屋の出前であればどうしようもないので、在庫有りの3品の中から一つ選んで、目的のホームへ急いだのであった。
 話は変わるが、全国を眺めた場合、かつて名物駅弁といわれるものがあった。
上越線の『峠の釜めし』、北海道森の『かに飯』、富山の『鱒のすし』、越前『かにめし』、岡山の『祭りずし』などは良く聞いたことがある。
なかには運よく食べることができたのもある。
 名物駅弁の駅を通るときは、大いなる楽しみでもあった。
駅弁は冷たいものを食べると云う概念があったが、紐を引っ張るだけで温められるものも開発されたのを覚えている。
確か牛タンやらステーキやら、肉系のものや釜めしなど、温かいものが食べられるようになっていた。
最近はどうなっているのか、随分御無沙汰してるのでわからない。
 余談ついでにもう一つ余談。
若いころであるが、東海道新幹線に東京へ行くことが何度かあった。
午後から仕事の場合、昼前に浜松、静岡を通過することになる。
決まって車内販売で「うなぎ」の弁当を売り来ていた。
B級グルメファンにとっては、少々値段がお高い。
美味そうだなあと思いながら、いつもパスしていた。
 また当時は「うな重」を食べるなんて、殆ど機会もなく慣れてはいなかった。
あるとき思い切って買ってみた。
恐る恐る食べてみた。
「美味いな…」
と新幹線の駅弁では初めての合格点を与えたのであった。
駅弁と云えばそんな思い出が蘇って来る。
 さて、大阪駅の駅弁である。
手に入れて電車に乗り込んだ。
快速電車である。
乗客が多かった。
立っているしかない。
このような車内では、弁当は食べられない。
 そのうち空くだろうと思って高を括っていたが、空かない。
ある駅で接続電車に乗り変えた。
座れるには座れたが、まだ弁当の雰囲気ではない。
もう少し待とう…。
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 やっと、見える範囲に人がいなくなった。
弁当の時間である。
大阪駅で手に入れたのは「ひっぱりだこ飯」というネーミングの釜めし風の弁当である。
タコツボ風の焼き物うつわに炊き込みご飯、その上に錦糸玉子やらほうれん草、アナゴのしぐれ煮、と小さいタコが一番上に乗っている。
 能書きを読むと、明石海峡大橋開通記念で、新幹線の西明石駅で売り出したものだそうである。
更に、明石のタコは明石海峡の速い潮流にもまれて育ったために、足が短く、身が引き締まっているとのことである。
 しかし冷たいのが玉にキズである。
夏だったからまだ良しであるが、冬は温めないと無理だろう…。
 大阪の味が食べたいのに、品切れ代役だったから仕方がない。
駅弁の現実はこうなのか…。
 そして、値段、種類の豊富さ、レンジでの再加熱サービス、などがある駅ナカのコンビニ弁当が駅弁?の主流を占めてきている現実も理解できたのであった。
 それと、普通列車の場合、大阪を1時間以上も離れないと、駅弁が開ける車内にはならないことも、現実であった。
 そうはいっても、駅弁は旅情をかき立ててくれる。
 先日九州新幹線に乗った時に、車内販売の弁当を買った。
「・・・彩り弁当」とのネーミングで、九州各地の美味いものが小分けに仕切られていて、おまけにお品書きまで付いている。
 旅情を楽しむには持ってこいであった。
 これこそ駅弁の神髄であろうか…。