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 所用ができ、久しぶりに仙台に行くことになった。
ここの仙台駅は、駅前広場が2階建てになっていて、好きな駅の一つである。
電車を降りて駅の外に出ると、その2階部分の広いプロムナードを歩いて地下鉄・バス・タクシー乗り場に行くことができる。
 大抵の駅前広場では、電車を降りて駅舎を出た途端にバスやタクシー、自家用車が入り乱れての迷路を通って行くことになり、いきなり危険にさらされることがある。
しかしこのように2階建てになって歩車分離になっていると、外から来たものにはうろうろしていても安全・安心である。
 付近を探索する時間はなかったので、そんな時は駅舎の土産物屋を覗いてみることにしている。
駅舎構内の様子は以前とあまり変わらない雰囲気である。
しかしなぜか土産物屋さんは昔と比べて牛タンの店が増えているような気がする。
 その牛タンに誘われて、今回はそれをお土産に求めてみようと思い、どの店が良いのか、順番に訪れて見た。
美味いマズイは店頭ではわからない。
良し悪しは判断できないので、持ち帰る時間がどうなのか? 値段はどうなのか? が決め手となる。
 最初の店は「6時間以内に冷蔵庫へ入れて下さい」と云う。
その次の店に行くと「12時間以内に冷蔵庫に入れて下さい」と云う。
他の店も6時間が相場。
鮮度を保つには6時間の方が良いとは思うが、時間の長い方は何らかのそれなりの細工をして
いるのであろうか?
どちらが良いのか分からないが、決めないとしようがない。
また、これからの道中に何が起こるか分からない。
とりあえず12時間は冷蔵庫に入れなくても大丈夫と云う方が安心なので、それを買い求めた。
 その日は東京泊まり。
早速ホテルの冷蔵庫に入れて、これで一安心となった。
 あくる日は、牛タンを抱えて帰る日である。
帰ったその日の夕飯は当然のことながら、牛タン焼きパーティー?となった。
 包装を開けてみると、厚さは3ミリぐらいはありそうである。
その牛タンを焼いて貰い、早速皆で味わってみる。
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「美味い!!」の一言である。
厚いのにもかかわらず、柔らかい。
選び方も良かったと思うが、少し胡椒を振り掛けての焼き方も火の加減も絶妙であったのであろう。
今まで食べた昼食の牛タンとは比べ物にならなかった。
もっと食べたいとのおねだりもあったが、もうこれだけしかない。
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 さて、なぜ仙台で牛タン焼きが?と前々から不思議に思っていた。
お店で聞いてみたが、丁度夕方のかき入れ時、売ることに忙しそうであるし、邪魔してもいけない。
仕方ないので、後日に調べてみた。
 仙台は「牛タン発祥の地」と云われる。
これには仙台の焼き鳥屋の御主人S氏が関わっている。
S氏は山形県に生まれ、昭和10年ごろ、東京で日本料理の修業をしていた時に知り合ったフランス人のコックから、
「牛の舌ほどうまいものはないんだよ」
と言われて、自分で焼いて味わって見た。
それがとても美味かった。
 その後S氏は戦時中、焼き鳥の屋台を引いて、仙台の近隣の都市を売り歩いていたが、戦争が終わって仙台に落ち着こうとやって来た。
最初、焼き鳥店を開店したが、時期が時期、材料が思うように手に入らない。
それならと云うことで、昔味わった牛タンの味を思い出し、仙台GHQの大量の牛肉の消費から残されたいたタンを使い、牛タン専門店として鞍替えした。
これが仙台の牛タン焼きの始まりと云われている。
 しかし、仙台市民とは馴染みのない牛タン、それから暫くは人気が無かった。
せいぜい、呑みの「締め」に食べられたくらいらしい。
 やがて高度経済成長期に入ると様相は変わった。
仙台への転勤族や単身赴任(仙チョン族と云うらしい)が増えると、昼食や夜の街で牛タン焼きの味を知り、仙台赴任から原籍地へと戻ったサラリーマン達の口コミで牛タン焼きは評判になったと云われる。
 そして牛タンの高蛋白質の割には脂肪が少ないことがマスコミで紹介され、ヘルシー志向の人たちのみならず、国民全体に牛タンが受け入れられていった。
この流れに乗って、仙台の牛タン焼きも有名になっていったのであった。
そして近年、旅行ブームとなってからは、仙台への観光客達が仙台の味として食べることになったのである。
それを見て仙台市民も食べるところとなったと云われている。
 しかし、牛タンが大量に販売できるようになったのは、20年程前の牛肉輸入自由化である。
大量の材料が安価に入手できるようになり、ここ10数年の間に新規参入した業者も増えた。
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 牛タン焼きは当初、米国産の牛を使って始めたと云うことから、牛は脂肪の付き具合いが良い米国産でなくてはならないというこだわりがある。
安価であると云うのも理由の一つであろうが…。
地元産の和牛仙台牛を使っての牛タンもあるらしいが、やはり米国産以外のものは中々受け入れられていない。
「米国産を使ってるのに、何が仙台名物なのか?」
という意見がある。
素材まで現地でなければならないと云う理屈である。
 その意見に対しては「仙台発祥の牛タン」という言い方をしている店もある。
それは、調理法および食べ方を最初に行ったのは仙台であるとの言い方である。
それはそれで正しい。しかしながら、小生は「仙台名物」でいいと思う。
名物の視点は人が作ったものと云うところに置きたい。
人が重要なのである。

素材まで現地と云われると、ひょっとしてご当地名物と云われるものは無くなってしまうのではないかと恐れる。
 杜の都仙台、街路樹が見事である。
牛タンや萩の月、白松がモナカ、浦霞、一ノ蔵の酒… 美味しい物がたくさんある。