今月最後の週末がやってきて、女3人組の女子会が始まった。
今回は洒落た店でと、イタリア風の「ロッソ エ ビアンコ」、ワインの美味い店の窓際テーブルに着いていた。
この3人、那美、比呂香、琴絵は、ある派遣会社に同時に登録した同期生である。
それぞれの派遣されている会社は、那美が福祉関係の協会、比呂香は大学の事務補助、そして琴絵は竹上電機の東京支店となっている。

3人揃ったところで、比呂香が声を掛ける。
「どう、みな順調?」
「まあまあってとこかな? 大きな問題はなし」
「事件は発生せず。平々凡々。比呂香はどうなの?」
「右左に同じ。変化なし」
それからしばらくナンのカンのと云ってる間に先ずはワインが運ばれ注がれた。

「カンパ~イ!」
「かんぱ~い!」
「お疲れさま~ぁ!」
と今日も賑やかに始まったのであった。

「比呂香! この間、四国の田舎へ帰ったって言ってたけど、どうだったの? 何やら台風が来ていたようだったけど?」
「帰るには帰ったけど、大変だったんだな…」
「やはり台風?」
「そう、台風がね…。金曜日、会社が終わってから新幹線に飛び乗ったん。名古屋辺りで『瀬戸大橋線は運転見合わせ』とアナウンスがあってね。それならばバスにしようと新神戸で降りたまでは良かったけど、神戸からのバスも運休だって…、最悪…」
「それはついてないね…。で、どうした?」

「その日は諦めて、神戸でビジネスホテルへとね。仕方ないもんね。朝起きて今日は大丈夫でしょうとバス会社に電話で聞いて見たら、今日も運休してますって…。仕方ないから岡山まで行って特急が動くのを待とうと、岡山までいったんだよ」
「少しでも近くにね。で、動いた?」

「まだまだ、動かず動かず。それから長い一日が始まってしまった。何もすることはないし、台風は高知で居座ったままだし、台風の進路予想と根競べになった」

「それで?」
「実家に電話で何度も聞いたけど、風も雨も普通だって。台風なんて感じないとずっと言ってた。
午後6時の台風情報は『今台風は岡山です』と云ってた。明らかに瀬戸内海は過ぎている。駅員さんに聞きに行ったんよ。『台風は瀬戸内海を通過しましたよね。ずっと前から四国では台風は感じられないって言ってますけど、いい加減電車動かしませんか?』とね。しかし答えは一つ、『まだ暴風雨圏内ですから、電車は動かせません』とね」

「暴風雨圏って、あの進路図の赤丸でしょう?」
「そう、天気図の赤丸が過ぎないと、規則で電車は動かせないんですって。雨も風も無いのに気象庁はまだ台風と云い張ってあの赤丸をまだ消さない。温帯低気圧になったと云えば赤丸は無くなるのに言わない。それと暴風域は台風の後ろ側でもコンパスで描いたような丸になってる、なんでいつも丸なのよ! 事なかれ主義じゃない! 腹が立って腹が立って…。素人目にも分かることなのにね…」

「まあそれは、わかるけどね…。おそらく昔それで失敗したことがあるんだろうね、きっと…」
「でしょう…! 広島の土砂災害とか御嶽山の噴火の警報とか肝心なことは抜けてるしね…。気象庁もお役所だ…」

「まあまあ…。仕方ない仕方ない…、オカミさまさまだからね…。それでいつ動いたの?」
「その日の夜の10時、実家へ帰ったらもう御前様つうか朝帰り…。日曜日の午前3時だったか4時だったか…、実家に着いて仮眠して法事。法事終って電車乗ってそのままトンボ帰りしてきちゃった」

「そりゃ大変大変…。風に弱い瀬戸大橋だね…。昔、余部鉄橋で列車が落ちてから、慎重だね」
「慎重は良いけどね、過度はダメでしょうに…。 風に弱い橋に電車を通すなんて小細工せずに、北海道や九州みたいにトンネルにしてたら、こんなことならんかったと思うけどなぁ…」

「実はね…。みんなに隠してたけど、ワタシ鉄ちゃんなのよ」
このメンバーではいつも聞き役の那美が急に喋り出した。
那美はいわゆる女「鉄ちゃん」、鉄道マニアである。
鉄道のことは何でも知っている積りである。

「瀬戸大橋ね。最初の計画はトンネルだったんよ。北海道、九州みたいにね」
「じゃあ、なんで橋に変わったんかな?」
「理由はわからんけど…。ただ、香川県議会がそう変更決定したということは知ってる。多分だけど、観光資源にしたいという意図だろうね? それと大きな声では言えないけど、当時のゼネコンのエゴでね…」

「変更することないよねな…、まずトンネルで電車を通して、その後に橋を掛けてもいいしね」
「その通りなんよ。交通網の基幹は鉄道だからね。それは、橋に電車を通せば良いじゃないかということで、ゼネコンが格好良い設計図を描いて、それで決着してしまったんよ」

「普通の時は良いと思うけどね。風が出たりするとすぐに止めないといけないからね。四国へ渡る人は皆困ることになっているよね」
「その通りその通り、トンネル掘って初めて陸が続いてると言えるんよね。鉄道が海峡を意識せずに初めて一体運用と云えるんよね。橋はあくまでも橋、橋渡し…」

「四国に、明石・鳴門ルート、児島・坂出ルート、尾道・今治ルートの3か所も橋を掛けたのは、それはそれで良いとして、せめて一つはトンネルにすべきだったのではないかな? 明石トンネル、鳴門トンネルをすれば良かったのにね。新幹線も走れるし、言うことないのにね。四国は近くなって、観光も産業も興隆する。熊本・鹿児島に行くのも良いけど、高知・松山もいいよね」

「前に四国新幹線構想ってあったけど…」
「それなんよ…。計画では、紀淡海峡にトンネルを掘る計画だったんよ。関空を通って、トンネルに入り、淡路洲本を通って、鳴門から徳島、高松、松山の計画だったんだけどね。もう、反故になっちゃってるみたいね…」
「もう日本は元気が無いしね、何ともならないな。町起こし、地域起こしの掛け声は盛んなのに、国起こしができていないよね」
「どうなっているんだかね? わからないわ…。ただし、ブルトーザーはベストとは言わないけどね…」

「どちらにしても、日本全国、平等に発展して行かないとね…」
「税金は平等なのにね…、利便さや生活レベルも平等になるべきだろうと、思うけど…」
「むずかしいなぁ…」

話には不満が残るがそこは四方山話…、美味しい料理とワインで満足満足…、出来あがっていた。

「明日は休み。久しぶりに、カラオケ行かない? ボックス、予約するよ…」
「よし、行こう」「行く行く…」
と、一次会はお開きとなったのであった。