竹上電機東京支店営業課の面々、下期最初の月10月の月末を間近に控えている。
市場の動向は、アベノミクスの掛け声はどこ吹く風、円安も安定して、不景気風が吹いている。
政府は一生懸命に好景気を演出しているようだが、経済動向とはかなりかけ離れている。
このままでは、昨年より下がった成績になりそうな予感がしている竹上電機であった。

営業課では週末の報告会を賑やかに済ませ、わが社だけは頑張ろうの意志統一もできた。
そして後は、恒例の週末呑み会である。
そそくさと後片づけして、鈴木課長を先頭に例の居酒屋「藤屋」へ出かけた。

「皆、ご苦労さん…。あと一週間で今月の締めだ。きっちり締まるように頼むな…。まずは乾杯と行こう。前田君、頼むよ」
「ハイハイ、じゃあご指名ですので、乾杯~ィ」
「乾杯~」「かんぱ~い」「カンパ~ィ」
今日も賑やかに始まったのであった。

「横田主任、お家を新築されたと聞きましたが…」
「思い切ってね。家賃払ってばかりじゃ、無駄なような気がしてね…。しかし消費税8%は堪えるね。何百万も税金で持っていかれる」
「そうだね…。大きな買い物をすると、何でこんなに税金が?となる。元々給料からは年間で何十万という所得税が引かれてるんだからね。その上に税金を課すのは止めてほしいもんだがね…」
「そうあって欲しいですが、全くの逆行ですね。今度消費税10%にしようとしている。どれだけ取ったら気が済むんでしょうかね?」

「ニュースでは、第三のビールの増税を考えていると言っている。安いから売れてるのに、高くなったら買わないと思うけどね…。税収が落ちるのは目に見えている」
「いやあ、メーカーを馬鹿にした話ですね…。苦労して開発して売り上げを伸ばしているのに…。議員や官僚は物作りをしたことが無い人ばかりだから、発想が貧困ですね。困ったもんです」

「まあまあ、それなりに金への執着心だけはある人ばかりだからね。政治をし易くするには金しかないと云う考えの塊りだから…」
「節約したらいいと思うけど、そんな経験はないお坊ちゃん、お嬢ちゃん達ですからね…」
「わが社にでも体験入社して、営業してもらいたいね。考え変わるよ。その税金だがね、我々庶民はかなり取られてると思うんだが、一体どれだけ取られてるんだ? 前々から調べて見ようと思ってたが、面倒くさくて…。こういう話は横田主任だね…」

いきなり物知り博士・横田主任の登場場面がやってきた。
「もう出番となりましたか…。今日の呑みはハイピッチですね…。じゃあ、最初にクイズです。月給30万円と仮定した場合、払う税金は給料の何割でしょうか? 2割より上か下かで答えて下さい」

「上…」「上…」「下…」の声が飛び交う。
「そう慌てないで、まず考えて見て下さい…。じゃあ、手を挙げて下さいね。下と思う人?」   手が2本上がった。
「残りは上ですね…。 6人です。やはり税金はしっかり取られてるという実感が多いんですね」

「それじゃ順番に考えて見ましょう。但し色んな条件がありますが、それは僕に任せて下さい。異論は一切挟まないように…。
まず所得税です。控除があるので8割の24万円を課税所得とします。税率を10%として、2万4千円ですね。
それに伴う住民税です。所得税の約4割として、丸めて1万円ですね。
併せて3万4千円ですね。
健康保険・介護保険それに厚生年金併せて1万6千円とします。
そしてこの人、住宅ローンを月々7万円払っているとします。

すると可処分の金額はこれらを差っ引いて、18万円となります。
このお金で1か月の生活費をまかなう訳です。
税金を順番に云うので、前田君、携帯で計算して下さいね。

消費税のかからないものもあるので15万円に消費税がかかるとします。8%ですから1万2千円ですね…。
タバコを日に1箱20本吸ってるとします。276円X30箱で、8千3百円が税です。

車を持ってるとします。自動車税は月約5千円かかります。
ガソリンです。月100リットル使います。100リットルX60円ですから、6千円が税金です。

酒は当然呑むでしょう。ビール1リットル毎日飲むとします。他の酒でもかまいません。30リットルX220円ですから、6千6百円が税です。

忘れてました。
最初に計算した住宅ローンですが、購入した住宅には消費税がかかっていて、それも合わせて返済しているので、税率は5%として7万円X0.05で3千5百円です。
これだけにしましょう。前田君、税金の合計は幾らですか?」

「7万5千4百円になりました。30万円の25%です」
「やはり正解は上でした。但し、タバコも飲まず、車も持たない人はそれを差し引きますから、2割を弱冠下回ります。念のためですけど…」

「思ってたけど、たくさん払わされてるな! 腹立つけど…。これで消費税を10%にすると、30%に近づくな! やっとられん!!」

「まだ取ろうと云うんです。何を考えているんですかね? 国民が国や国の人たち、そして地方の人達を養っていると云うことが分かっていない!! もっと節約しなさいと言いたいですね…。身を切る改革もどこかへいってしまったし…」
「何を考えているんだ! 理解できん!」
「無駄遣いでお小遣いねだりの、子供みたいなものですね。見当違いの政治ばかりやってるくせに…」

「税金を呑んでいると思ったら酒がまずくなるから、この話は打ち切りだ!」
と、今日も呑み会は話題を変えて続くのであった。