平安京の北東の鬼門、一条通りの東の終点、大文字山の西向かいの吉田山にある吉田神社は、鬼門が故に、室町時代に節分祭を執り行った元祖として、よく知られている。

吉田神社の神職は、従来、卜部家一族が、務めていた。
鎌倉のころの文学、『徒然草』の作者、吉田兼好(兼好法師)はこの神職の家系で、本名は卜部兼好という。

元々兼好は武家であるので、若い頃は武士として宮廷に勤めていたが、天皇家や公家あるいは武家の争いごとに嫌気がさして、30歳を過ぎたころには、出家してしまった。

少し、余談をさせて頂く。

一条通り、かつての平安京の一番北側の通りであったが、
現在は、御所の位置が、以前の場所から北西に移動しているので、
今の一条通りは、御所を挟んで、コマ切れの状態ではある。

この一条通り、現在の御所を挟んで、西側には、有名な一条戻り橋や、陰陽師安倍晴明の晴明神社がある。

一条戻り橋は堀川に架かる橋である。
平安時代この橋は、あの世とこの世をつなぐ橋として信仰されていた。
この橋上で願い事をすると、故人と対話ができたり、願い事がかなったりする、今で云うパワースポットであった。
それは、晴明が橋下に12神将像を隠していたからと説明されている。

また近代も、戦争出兵の時、無事帰還を願って、この橋を渡って出兵したり、お嫁に行くときは、この橋に近寄るのを嫌ったり、現在でも多くの云われのある橋である。

話を本来の、一条通りの東の終点の、吉田神社と吉田兼好に戻す。

兼好は出家してからは、修学院や比叡山横川中堂で仏道の修行を積む傍ら、和歌もたしなんだと云う。

また、思うところを随筆集「徒然草」に書き留めた。
社会風刺や教訓など、この時代の社会風潮を知る上で、貴重な文学として
評価され、今でも、結構なファンがいる。

兼好法師の振り返りに、徒然草も中から数点の教訓めいたものを紹介することにさせて頂く。

退屈だとは思うけれども、学生時代に還って是非ご覧頂きたい。

【仁和寺にある法師  第52段】

仁和寺にいる法師、八幡の石清水八幡宮に、念願の参拝をした

帰ってきて、仲間の僧達に、
「石清水にお参りして来た、大変、尊い神社であった」
「そもそも、お参りする人ごとに、山に登っていくのはなぜかと、思ったが、神社にお参りするのが、本来の目的なため、そのまま帰ってきた」

顔を見合わせた僧達、なぜ、出かける前に聞いてくれなかったのかと思った山の上に本殿があると言うことを・・

独りよがりな行動は、いい結果を招かない、  ちょっとした事でも、
経験者に相談したほうがいい、という教訓である

【その醜い笑いを、笑え  第78段】

仲間の中へ、新しい人が加わって来た時に、
わざと自分達でしか分からない言葉で、言い合って、目配せしたりして、
笑い合ったり、のけ者扱いのような振る舞いをするのは、
教養の無いことを、さらけ出して、喜んでいるだけのことである
【木登りの名人  第109段】

木登りの名人と呼ばれた、植木屋の棟梁がいた
職人を、木に登らせて、枝を切らせていた 高いところにいる時は、
何も云わず、作業が終わって、軒先の高さまで降りてきた時に、
「危ないから、気をつけよ!」、と言葉をかけた

「これぐらいになれば、飛び降りることも出来る。なぜ今ごろになって?」
周りで、見ていた人が、不思議に思って、云った

名人は、
「高いところにいる時は、怖いから自分で気を付ける。
もう大丈夫と思ったときに、過ちは起きるものである」、と・・
身分は低いけれども、云うことは、聖人の戒めにかなっている

球技でも、難しいところは、クリアーできた後に、ほっとして、
意外と簡単なところで、ミスをするものである
【賢きを学ぶは、賢し  第85段】

賢い人を見て、羨ましく思うのは、人の常である

愚かな人は、賢い人を見て、これを憎んで、次のように言う
「大きな利益を得るために、小さいことは捨て、嘘をついて、
飾り立てて、名を立てようとする」、と罵る

優れた人の志を理解できないから、このように云うのである
こういう人間は、進歩や改善ということのない人である

教訓めいたことを、4点挙げた。
現在でも、通用する教訓ではある。

徒然草は主に江戸時代になって、注釈書も書かれ、町人達にも愛読されて、
写本も数多く、作られたという。
江戸期の文化に多大な影響を及ぼしたと云える。

先年、葵祭りを見に行った折り、賀茂川べりで行列を待つている間、
隣にいた同じような年恰好の男性と話した。
その方は、この兼好法師の徒然草に関係する場所を、順番に訪ねて、
写真を写したりしているということだった。
兼好法師は今でも根強い人気があるようだ・・。

そういえば、風貌も兼好法師に似ていたような気がする。

人垣の隙間から世の中のことを見て、コメントする。
それが当を得ているのが、兼好法師の妙であろう・・・。