酒のいろは三昧も、前回の「す」の酒「酔心」で最後まで辿り着いた。
ここらで日本酒の飲み会もお開きとする。

現在の日本の産業のジャンルで、江戸時代から長く継続されていて最も多い企業は、他でもない酒蔵ビジネスである。
それだけに、日本酒の技術や取り巻く環境は我が国の文化・歴史と言って良いと思う。
このような考えでこのシリーズを始めた。

酒は全国的に求めたので、近場は取材も出来たが、遠くになるとそう簡単に現地まで行って取材ができるわけではない。
そういう場合は、今までの酒とは関係ない旅行の体験を搾り出し、思い出しに四苦八苦しながら書いた。
どうしても分からないところはネットの力も借りた。

酒蔵は加工業である。
農民が一所懸命育てた米を使い、それを最高の状態に加工するのである。
酒水も汲み上げて利用する。
多くの人の努力や自然の糧に立脚する仕事である。

そして出来た酒を地域の住民や遠くの都市に向けて運び販売する。
社会学や経済学でいう二次産業であり、販売と云うサービスが伴う三次産業でもある。

これを上手くやるには、地域との密着や社会との連携が大切である。
酒蔵は時には地方文化の手伝いもしている。
また農業への協力もしている。
また時の権力に対しても、上手く付き合いができているのである。
その地区の庄屋や大店のレベルでないとできない仕事ではある。

大店にも栄枯盛衰の波がある。
殆どの酒蔵は創業から現在まで、何度も廃業を考えた筈である。
しかしそれを乗り越えて来た酒蔵が今日まで生きている。
その生命力に敬意を表する次第である。

また、女性の蔵元や杜氏のチャレンジも見た。
「るみ子の酒」、羅城門の「さと子の酒」である。
大きなブームとなって欲しいものである。

このシリーズで飲んだ酒銘は、ベスト5で云うと、①京都11、②兵庫6、②新潟6、④奈良3、あとは同率の⑤位で、大阪、和歌山、広島、高知である。
一方、都道府県別の日本酒の出荷量は、①兵庫、②京都、③新潟、④埼玉、⑤愛知となっている。
比べてみると、1~3位は前後があるとは云え3つの府県で占めている。

この結果は酒の美味さのランキングではない。
偶々、いろは順に近所のスーパーや百貨店で手に入った銘柄の結果である。

販売店には地域性も考慮して酒を置いている向きもあるが、概ね出荷量の多い府県は、沢山の酒銘を店頭に並べていると云うことである。
即ち店への営業活動がしっかりできているということである。
これが、居酒屋のカウンターとなると少しは変わる。
いずれにせよ、その地道な努力があってこその出荷量であろうと思われる。

この酒シリーズに、酒をネタにして何たる不見識と云う御仁もおられると思う。
しかし、酒は文化である。

最後に日本画の大家である横山大観の言葉を再掲させていただく。

『酒造りも、絵を描くのも芸術だ』

拙い語りをお読みいただいた方々には、大いに感謝を申し上げて、いろはシリーズ第5作目を、これでお開きとさせていただく。

〔酒いろは三昧 完〕