「ゑ」の酒は「越後鶴亀」とした。
醸造蔵は新潟市西蒲(にしかん)区にある「EGTK」である。

手に入れた酒は「越後鶴亀純米酒」、越後国古式伝統仕込である。
原料米は「五百万石」と「こしいぶき」、どちらも新潟県産の酒米である。
精米歩合は60%、日本酒度+3.0、酸度1.6、アミノ酸度1.4、アルコール度15~16度である。

早速飲んでみた。
少し濃厚かつ辛口である。
しかしどこか甘味が漂う。
この甘味は米の甘味なのであろう。
さすがに60%という吟醸レベルの精米が生きているような気がする。

昔の酒の味かも知れない。あるいは燗に適するのかも知れない。
飲むほどに段々と濃厚になってくる酒である。

この酒のパッケージには「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2013」金賞受賞で、3年間連続とのことである。
少し前には、モンドセレクションの金賞を受賞した酒でもある。

この酒蔵は、明治23年の創業である。
酒銘は、幕末から明治にかけて時代のうねりに美味しい酒造りを目指そうと、おめでたい名前である「鶴亀」にしたとのことである。

この酒蔵は、米の選定とそれに合う洗米条件・吸水条件をシビアーに行っていると云う。
また大切な麹造りは麹箱を使用する。
熟練の越後杜氏と共にこのような小仕込にこだわっているのである。
これを越後国古式伝統仕込と云うのであろう。

この酒蔵の立地する新潟市西蒲区は新潟市の最南部にある。
数年前の平成の大合併で新潟市に編入されたところで、区域のほぼ半分を水田が占めている。
新潟市の区では、面積は一番で新潟市の面積の約4分の1を占めているとのことである。
そして区の人口密度は市では最小である。

西蒲区には北国街道の宿場町、岩室温泉もある。
この岩室には天神山城跡という城跡がある。
上杉謙信の家臣で直江兼続の弟、大国実頼が城主を務めた城である。

この酒蔵の地域にはJRの越後線が通っていて、「巻駅」が町の駅である。
この越後線は、信越本線の「直江津駅」から別れて新潟県の海に近い側を通り、途中「吉田駅」で弥彦線と交差し、「新潟駅」で再び信越本線と合流する路線である。

この吉田駅や弥彦(いやひこ)神社は、この酒蔵から数kmの南にある。
私事ではあるが、かつてこの吉田には何度か訪れたことがある。
日帰りは無理なので、いつも宿泊と云うことになる。
宿泊は、いつも弥彦神社の門前の弥彦温泉と云うことになる。
豪華な温泉ではない。
門前の土産物屋街のような雰囲気で、数件の旅館が立ち並ぶ鄙びた小振りの温泉である。

泊まると自然の流れで宴会となる。
酒宴となり酒が出てくる。
しかし残念ながらこの越後鶴亀ではない。

変わったスタイルの酒瓶で出てくる。いや酒瓶ではなく、甕(かめ)入りである。
甕に入った酒、酒銘を「甕覗(かめのぞき)」という。
あまりにも旨いので、もう無くなったのか? と甕の底を覗くと云うことから来た名前である。

この酒は、この弥彦神社の東に当る加茂市で醸造されている酒である。
蔵の名を「MSK」と云う。
この蔵も明治の同時期の創業である。
この甕覗は本醸造酒であるにも関わらず、精米度合いは60%以下の吟醸並みである。
新潟の酒は美味い、と云って飲んでいた。
当然のことながら甕の追加もあった。

ある時、折角来たのだからと早起きして、弥彦神社に行ってみた。
早朝であるので荘厳である。
山霧も降下していて、霊気が満ち足りているような雰囲気である。
当時は神社のことが良くわかっていなかったので、どこへお参りしていいのかもわからない。
境内外の石畳を一周して戻ってきたのであった。

後で聞いてみると、この神社は越後国の一之宮そして弥彦山を御神体とする古来からの由緒ある神社であるとのことである。
そして所々がパワースポットとなっていて、多くの人のお参りがあるとのことであった。

今になって思うが、この越後鶴亀と甕覗、良く似た味がした。
酒蔵の水系は信濃川で同じ、米も新潟産の五百万石などの酒米、そしてそこに酒の命を吹き込む杜氏も熟練越後杜氏と、共通点があるのは当然であろう。

「越後鶴亀」、かつて旅した新潟を思い出した酒であった。

〔ゑノ酒 完〕