「れんげの舞」という酒を偶然見つけた。
ラベルはピンクで、れんげの花のスケッチと五重塔のシルエットが施されている。

この「れんげの舞」はれんげを酒にしたものかと思いきやそうではない。
れんげを植えた田圃で春を迎え、れんげを土の栄養として、田植え・稲刈りをして造られた米を醸造した酒である。
れんげ畑の所在地は岡山県総社市、そのれんげ畑で造られた米の名前は「あけぼの米」である。

もちろんのこと酒は純米仕込である。
絞ってそのまま生原酒の状態で冷凍保管していると云うことである。

「れんげの舞」はピンク色の瓶に入っている。
早速、いただいてみよう。
含むとほのかな香りがする。
花の香りがすると云っても過言ではない
れんげと云う先入観があるためであろうか…?

味は甘口である。
しかしトロトロとはしてない。
スッキリ甘口の酒である。
瞬く間に無くなってしまったのであった。

この酒を醸造している酒蔵は「YKG]という。
岡山県総社市にある。
吉備路の酒は万葉集にも詠まれている。
あまり知られていないが、古の時代から酒造りが盛んな地域であった。
YKGは明治40年、倉敷市真備町で酒造りを始めた
そして昭和42年に、より米と水の近場へと現在の総社市に移転したと云うことである。

このあたりには数多くの古墳、史跡が残されてる。
「吉備路」と云われ、多くの観光客があるところである。
この吉備路は、酒に適する雄町米をはじめ備中米が多く取れる土地である。
また、この酒蔵の近くには高梁川が流れている。
酒造りにこの高梁川の伏流水を利用するが、少々の硬水質であるため、やや辛口の酒ができる。
しかし、れんげのあけぼの米を使うと、やや甘口になると云うから、不思議な酒が出来上がることになる。

もう一つ「れんげの舞」のラベルには五重塔が描かれている。
これは備中国分寺の五重塔である。

江戸末期に建てられたもので、重要文化財に指定されている。
高さは約35mである。
普通の五重塔は上に行くほど屋根が小さくなるものであるが、この塔は屋根の上層と下層がほぼ同じ大きさのストレートな造りである。
江戸時代後期の建築様式を濃く残している代表的なものである。
岡山県内では唯一の五重塔でもある。

この塔のある場所は酒元とは同じ総社市内で、駅一つ北のJR総社駅の東の方である。

最初の国分寺は、かつての奈良時代に聖武天皇の号令によって全国一斉に建てられたものであるが、その後荒廃した。
続いてその跡地に、天正年間に備中高松城主・清水宗治が国分寺を再興した。
しかしそれも衰微し、現在の国分寺は江戸時代中期の宝永年間にみたび建築されたものである。

かつての国分寺の伽藍配置は法起寺式と推定され、高さ50mの七重塔、金堂、講堂を備えていたと云われる。
境内にはその礎石が数多く残されていて、国の史跡となっている。

またその国分寺の更に東、約600mのところに備中国分尼寺跡がある。
今も残っている築地土塀からはその規模が推察される。

南北朝の戦火で焼失したと云われているが、残されている礎石からは、境内の中心線上に南門・中門・金堂・講堂が建ち並んでいたと推定されている。
こちらも国指定史跡となっている。

この寺の周りには、春になるとれんげ畑が出現するという。
それを肥やしとして「れんげの舞」の酒米「あけぼの米」が育てられるのである。

まだここには訪れたことはないが、これを機会として是非行って見たいと思う。

「れんげの舞」、吉備路の丘や田畑の大らかな風景に思いを馳せた旨い酒の味わいであった。

〔れノ酒 完〕