「ろ」の文字が頭につく酒を探していた。
近頃はどこでも良いから酒売り場を見つけるとツッ~と寄り道をしてしまう。

あるデパートを通りがかった時、お決まりのように酒売り場を覗いてみた。

いろは順に酒を探すのは大変だと思いながら、ここも諦めて離れようとした。
しかし諦められない。
もう一度振り返ってみた。
何と外の通路に向けて酒が置かれている中に六歌仙と云うのを発見した。
これでしばらく連載が続けられるとの思いで早速購入、呑んでみることにしたのであった。

匂いはフルーティー、一口含んでみるとトロっとして甘い。
そうか甘口なんだなと思って呑みこむと喉の奥で辛口の刺激が…。
何という酒だろう…。
一口で二度美味しいとは…。
一概に酒といっても色んなパターンがあるもんだと…、酒の訪ね旅、ますます楽しみになった次第であった。

六歌仙の酒蔵は山形県東根市と書かれている。
山形のそのあたりと云えば、さくらんぼが有名である。
かつて職場にその近くの出身者がいて、時期になれば田舎から送ってきた
サクランボといって、お裾分けにあずかったことを思い出したのであった。

山形には行ったことはないが、この酒を味わいながら、サクランボと桜の咲いている風景に思いを馳せたのであった。

酒蔵六歌仙のページを見てみた。
銘柄の由来はわからないが、平安時代の鬼才・六歌仙の多彩な歌のように色んな場面で美味しく飲める酒という意味であろうか?と勝手に思った。

六歌仙の酒蔵では機械化を進めているそうである。
杜氏の方たちが高年齢化して行き、人材が不足してきているが、それを埋めるべく、若者の参入を容易にしようと云う試みだそうである。

機械でできるところは機械で、人間の経験と勘に頼らなければならない肝心なところは人間で…。
大企業では既にそのようにされているとは思われるが、地方の銘酒造りでは貴重な試みであろうと思われる。

さて、六歌仙…。
思いつくのは、有名な小野小町か在原業平か…?

小野小町の出自は明らかではない。
定かではないが、六道の冥途通い小野篁の息子の出羽郡司小野良真の娘と云われている。
秋田湯沢市の生まれ説が有力である。
そして山形の米沢市の小野川温泉は小野小町が開湯した温泉と伝えられ、伝説が残っているそうである。
温泉街には小町観音があり、美人の湯と称されている。

最近の科学的分析により美肌成分が多く含まれていることが判明し、単なる伝承ではなく効果の裏付けもあるようである。

このような小町関連の歴史が東北地方には多くありそうである。
六歌仙の酒と合わせると、本当であるように思われる。

古今和歌集の序文に六歌仙を評した部分があるが、その中で小野小町は、

『小野小町は いにしへの衣通姫の流なり
あはれなるやうにて強からず
いはばよき女の悩めるところあるに似たり
強からぬは 女の歌なればなるべし』

と評せられている。

ついでに小町の歌も一首、
「色見えで うつろふものは 世の中の
人の心の 花にぞありける」

山形の「六歌仙」、
桜が綺麗に咲いて、そのあと、たわわにサクランボのなっている山形の風景と、小野小町に思いを馳せた酒であった。

〔ろの酒 完〕