いろは順に日本酒の銘柄を見つけるのは、簡単なように思っていたが、結構難しいところがある。
この前の「ぬ」の酒とか、今回の「る」の酒には苦労した。
ネットで検索すると、いくつか見つかるが、取り寄せはしない方針なので、デパートやスーパーの酒売り場の偶然に掛けるしかないのも現実である。

先日、デパートの酒売り場を覗いた時に、2つのいいことがあった。
その一つが今回の「るみ子の酒」の発見である。
「る」の付く酒なんてないだろうと思ってパスしようかと思っていた。
しかし大阪のデパートで見つけた時はラッキーであった。

早速購入した。
2種類あったが、無濾過と云う生酒を選んだ。
この酒は冷やしたままで輸送して販売している。
そして冷やしたまま持ち帰って飲むのだそうである。
酒瓶の周りに保冷剤を入れて渡してくれたのであった。

何処の酒かも、何が特徴かもわからない。
また変わった名前の由来は何かもわからない。
兎に角、名前が合致したと云うだけで満足して購入したのであった。

先ず飲んでみる。
匂いと最初の味わいはフルーティーである。
冷酒であるので抵抗感がない。
むしろ芳醇のような気がする。
そして喉越しの時の若干の辛口…。
総合して飲み易い、美味しい酒であった。

さて、どのような酒なのか?

ラベルには、酒蔵の所在地は三重県伊賀市となっている。
合名会社「M酒造場」が会社名である。
杜氏は蔵元兼任となっていて、麹米は徳島産山田錦、掛米は信州産ひとごこち、となっている。

純米酒、無濾過生酒ということで、能書きには、
『槽口(お酒を搾る道具〔ふね〕のお酒がでてくるところ)から自然に滲み出てきた無濾過あらばしり生原酒を飲み易いように14%まで割水しました』
酒度は+5と云うことである。

これ以上のことは分からないので、ネットの力を借りて調べてみた。

以前、「夏子の酒」と云う連載漫画とそれをTV化したものがあった。
漫画家尾瀬あきらの原作で、ドラマは「和久井映見」主役のものである。

夏子の酒はバブル時代の新潟のある酒蔵が舞台である。
衰退の一途をたどる酒蔵の若主人、夏子の兄が一念発起して旨い酒、日本一の吟醸酒造りに挑んでいたが、夢半ばに倒れ帰らぬ人となってしまった。

生前の兄から夢である日本一の酒について聞かされていた夏子は、その兄の夢「幻の酒」を引き継ごうと、勤めを辞めその夢にチャレンジ・奮闘する物語である。

この漫画やドラマは当時、酒蔵再建を願う酒蔵の後継者達には大いなる勇気を与えたものだと評されている。

この漫画を友達から進められたるみ子さんは、涙しながら、一気に読んでしまい、早速、感激したという手紙を作者に書いたそうである。
その手紙のことは、るみ子さんの談によると、講談社漫画文庫「夏子の酒」第5巻のあとがきで触れられているそうである。

M酒造場のホームページに載っているので、参考にさせていただいた。

るみ子さんは造り酒屋の跡取り娘として生を受け、大学を卒業して製薬会社へ勤務していたと云う。
脳梗塞で倒れた父親のあとを継ぐために、会社を辞め酒蔵の生家に戻ったそうである。
と同時に御主人とも結婚されたそうである。

るみ子さんは子供のころから麹と酒の香りとタンクのもとで育ち、そのころからお酒の味を覚えていた。
そして小学生の時には、すでに荒走り(酒袋から自然流出してくる最初の酒)のおいしさを心得ていて、学校から帰るとこっそり味わっていた。
そんなことで美味しいお酒と云うのはどういうものか、わかるようになったと云うことであった。

彼女が子供の頃には能登から五人の蔵人が半年間住み込みで来てくれて、活気のあった蔵も、るみ子さんが経営者になたころには、杜氏と代司だけしかいなかったようである。

るみ子さんはお腹に子どもを宿したまま、朝四時に起きて30キロの米袋を運び、蒸米をタンクに入れ、上槽の仕事などをしたと云う。

さらに御主人に、来る年も夏子の様に蔵に閉じこもり、そして生まれてくる3人目の子供さんのためにも母として頑張ると宣言し、酒造りに情熱を傾けたのであった。

このような内容の手紙を受け取った作家の尾瀬さんは、親しい蔵元や酒屋さんに状況を話した。
すると彼らは「これは放っておけない」と酒蔵のある伊賀に行き、蔵仕事を手伝ったり、アドバイスをしたりして、応援したのであった。

そしてその中から生まれてきたのが純米酒「るみ子の洒」であった。
尾瀬さんのネーミング、そしてるみ子さんを描いたラベル、素晴らしいお酒が出来上がったのであった。
夏子の酒をもじったのではないかと云う意見もあったそうであるが、尾瀬さんはこれほど的確なネーミングはないと言い切っている。

そして現在、るみ子さんは日本酒に携わる女性の全国的なネットワークを作ろうと張り切っていると云うことである。

この話は、数ある酒に関まつわる物語の一部であろうかと思うが、現実に生きている話である。

これからも是非とも頑張って行って欲しいと思うし、出来るものなら応援もしたいと思った。

「るみ子の酒」、さわやかな感銘をを受けたのであった。

〔るノ酒 完〕