１
大阪市の東北部に、城東区、都島区という行政区がある。
大阪城から京都方向への出発口にあたる。
今回はこの地点にある「野江・内代町」をウオッチングしてみることにする。
野江は城東区、内代町は都島区であるが、この両方の街は地下鉄駅の駅名で「野江内代」とまとめて表現されていて、１つの町域を形成している。
野江・内代町を合わせた町域は、弦を左にして置いた弓のような南北に長い縦長の形である。
その真ん中あたりに野江内代駅がある。
その他にも京阪電車の野江駅というのがあるが、その駅は町域を東に外れていて「成育」と云うところにある。
弓の最下部である野江１丁目から北上してみることにする。
その最下部は京橋駅の少し東、国道１号線の桜小橋の交差点というところである。
交差点から少し街中に入ると大きな学校がある。
私立の開明中学・高校である。
最近は進学校として有名になってきた学校である。
校庭内で大建設工事をしているようである。
生徒増員のための新校舎の建設であろうか？
元の桜小橋から北上する道に戻る。
道の向こう側にも学校がある。桜宮中学校である。
北上するが、この辺りはマンション街である。
京橋駅に近いと云うことが地の利であろう。
道の両側には、綺麗なマンションが並んでいる。
路地があれば、そこを少し覗きながら進んでいく。
左手（西側）にカラー舗装した道がちらっと見えた。
このようなカラー舗装は大抵は、旧街道である。
早速行って見ることにした。
当たりである。
「京街道」の標柱があった。
その少し北に「榎並地蔵」と云うのが祀らている。
その横に京街道の説明看板があった。
しかし街道の面影は残念ながら少しもない。
この辺りと云うか大阪全体が太平洋戦争の時の米軍の空爆で、すべて消滅してしまった筈である。
この京街道を北に進む。
やがて広い車道に達する。
都島本通りである。
野江から内代町に変わる境界線である。
野江４丁目の交差点を渡り内代町に入った。
しかし何か忘れ物をしたような感がした。
２
交差点から北へ行けば、内代町であるが、まだ野江に未練がある。
交差点を東へ進む。
この日は何か事件があったのか、警官の立哨、自転車哨がやけに目立つ。
姿勢を正して歩かなければいけない。
交差点の北東に「水神社」と云うのがある。
野江にあることから「野江水神社」と呼ばれている。
あまり予備知識が無いまま御参りして、ご朱印を頂いた。
書いて頂いた神官の方に聞いて見た。
「この辺りは『榎並』と云うそうですけど、その由来は何ですか？」
「榎並と云うのはね。古代には荘園だったんですよ。榎並荘と云われてました。東西は花博開催地の鶴見緑地の辺りから京橋の辺りまで、北は滝井・土居の大川の辺りから、大和川（現寝屋川）の辺りまで。広大なものだったようです。所有者は近衛家。大したもんですね…」
「も一つ教えてください。内代の由来は何ですか？」
「それは、わかりません。しかし、かつては『うちだい』と云ったんでしょうね…。言いにくいので言いやすい方に変わって行ったんでしょうか？」
神官に分からないといわれれば、それはもうどうしようもない。
それはともかく、神社の御由緒記を頂いたので、後で考えてみることにしよう。
神社の北隣に「榎並小学校」がある。
その小学校の運動場の門の前に「榎並猿楽発祥の地、榎並城跡伝承の地」と云う石柱があった。
榎並の猿楽は鎌倉時代末期に丹波猿楽の新座としてこの辺りに座を構えたと云う。
そして住吉大社の神事に奉仕するなど活躍したのであった。
南北朝時代には榎並座と呼ばれ、丹波猿楽の楽頭として活躍した。
猿楽は後に観阿弥や世阿弥たちによって舞台芸術である能楽として大成された。
いわば、我が国の能楽発祥の地であったのである。
も一つ、榎並城についてはどうであろう。
この城は、三好政長の居城であった。
小さいながらも当時のこの辺り東成郡の随一の要衝であったといわれる。
主君は細川晴元。
この晴元に背いた三好長慶の軍に攻められ、政長が先ず野外戦で戦死、その子政勝が榎並城を守ったが陥落したと云われる。
この三好政長がこの地に築城した折り、度々の水害に悩まされていたので、水火除難の守護神として城内に小祠を建てたのが現在の水神社の社殿の位置とされている。
豊臣秀吉も大坂城築城の際、水火除難の神として社殿を修築して国家泰平、武運長久を祈願したと云われている。
この野江水神社の現在の社殿は明治２１年の建設である。
イザナギ、イザナミの両大神の子供である水波女大神（みずはのめのおおかみ）を祀っている。
大阪空爆の時、隣の内代町は大被害を受けたが、野江は無事だったり、野江の街に火災が少ないのはこの神のご加護によるものと地元では云われている。
神社の鳥居横には「水流地蔵尊」も祀られていて、その一端を担っているのかも知れない。
３
野江を後に次は内代町へと進めよう。
野江の町域の東の端は、京阪電車本線とＪＲ城東貨物線の両線が斜めクロスしているその線路が境界である。
また内代町の町域の東端も、野江から北上するＪＲ城東貨物線が境界となっている。
この京阪と貨物線が円弧を形成していて、この円弧の中に２つの町域が収まっているのである。
ＪＲの城東貨物線は大阪の北部と南部を結ぶ物流の幹線である。
しかし、物流もトラックの時代になって様変わりした現在、この貨物線も南半分が客車両を主体とした線区に変更されている。
おおさか東線という。
大阪南部の関西本線の「久宝寺駅」から中部の学研都市線の「放出（はなてん）駅」までを結んでいる。
沿線には地下鉄駅や近鉄奈良線の駅もあり、大阪の東部を南北に移動する場合には便利である。
実はこの城東貨物線、残りの部分を客線区にして北の新大阪まで「おおさか東線」を繋げようようと云う計画で進んでいる。
それが完成すると、大阪の中心地を通らずに新大阪に直行できるので、極めて便利なものになるであろう。
野江水神社の西の大きな交差点（地下は野江内代駅）から大きな道を北に向かって歩く。
「城北筋」という。
暫く行くと右斜めにちょっとした広場があり、そこに「京街道」と云う石柱がある。
そこから北東方向に細い道が通っている。
この細い道を歩いてゆく。
普通の、そんなに新しくない住宅街である。
暫く行くと、広い道に出てしまう。
先ほどの大きな交差点から北東に進んできている「都島本通」である。
京街道もここで吸収されてしまう。
歩道の上に「国道筋商店街」という黄色と白のテント屋根が被さった商店街が２区画ほどある。
この商店街を抜けると、先ほどのＪＲ貨物線のガードに行き当たる。
この先は別の街「関目（せきめ）」という所に入ってしまう。
余談であるが関目も榎並荘の荘園で、ここから荘園の外側を見張関所があったと云うことから関の目「関目」と云う地名がついたと云われている。
また、関目には大坂城の北東の鬼門鎮護の神を祀る関目神社がある。
それに、かつては大阪国技館があり、６場所ほどの大相撲興行が行われたところである。
４
ＪＲ貨物線の土塁に沿って、内代の街を左に見ながら歩く。
綺麗な落ち着いた街並みである。
少しの工場もある。
戦火に合わなかったと云われる野江の街並みと比べると、このようにも違うのである。
桜の花がもう咲いている。（訪問は３月中ごろ）
早咲きの種類であろうが種類は分からない。
しかし、もうその季節になっているということが実感できる。
ここら辺りの町内会のお地蔵さん「願地蔵尊」も祀られている。
内代町４丁目まで来た。
ここが弓の形の頂点である。
この先は「御幸町」となっている。
弓の弦の部分は隣町との境界であり、広い道が南下している。
見るべきものがなさそうなので、一本東の細い道に入って南下することにする。
途中に公務員宿舎であろうか「都島内代第４宿宿舎」と云うのがある。
「内代公園」という結構広い公園がある。
その公園の前に「内代小学校」もある。
総じて静かな住宅地である。
南下していくと、商店が現れるようになる。
左右を見ながら進んでゆく。
右手に、背の高い寺がある。「紫雲山雲観寺」と云う。
本堂は近代建築の３階建てで、見事なものである。
城北筋を整備するに当たり、この場所に移動されたと云われている。
この寺の横に「夜泣地蔵尊」の祠と「榎並橋」の石柱がある。
榎並橋も恐らくは京街道に架かっていたものと思われるが、これも移動されたものであろう。
この内代町、多くのお地蔵さんが街角に見られる。
それも綺麗な佇まいである。
信仰の厚い土地柄なのであろうか？
更に南下すると照明飾りがある内代商店街に戻ってきた。
ここで一周とする。
あとは最寄りの野江内代（のえうちんだい）駅に戻るのみとなった。
〔完〕